嫌われたがりと天邪鬼 完


少女漫画とか、そういったものでは温かいとよく言われるけれど、正直そんなことよく判らない。唇の温度なんて、そんな些細なことにまで気が回るほど冷静にはなれなかった。
一瞬離れて、そしてまた触れるその間の那智の息遣いや、優しい手の感覚や、唇の柔らかさで頭がいっぱいになる。

全てが那智で占められていく。どうしようもなく、恐ろしいくらいに幸せだと思った。


何度も何度もそれを繰り返して、ようやく離れる。お互い小さく息を吐き出した。このまま死んでしまうのではないかと思うほど心臓は煩く高鳴っている。

第一ボタンだけ開けられたワイシャツの隙間から覗く鎖骨と、その付近に小さくある黒子が妙に色っぽい、なんて。
そんなことをクラクラする頭で考えた。


コツン、と額を軽く自分のそれにぶつけられる。那智ははにかむように笑う。些細なそんなことすら愛おしい。



「…もう、嫌いって言わないでくれると嬉しいなあ…なんて」

「嫌いって言われるの嬉しいんじゃなかった?」



少し意地悪にそう返せば少し拗ねたように那智は息を吐いた。



「…嫌いより好きって言ってよ、これからは」


その『これから』が暗示する未来は、きっと明るい。



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