嫌われたがりと天邪鬼 完
今日の昼休みのことだった。
前記にもある通り、那智は普段学校では全く話さない。本当に事務連絡だけ。そのルックスの良さから、彼に話しかけたい、仲良くなりたいと思っている人は大勢いる(大多数は女子だが)けれど、あまりにも近寄りがたいそのオーラに圧倒されて、こっそりと遠巻きに眺める人が多いくらい。
それにも関わらず、今日は彼にお客がいた。
「相川くん、いますか…っ」と顔を真っ赤にして内股気味で廊下から那智を呼ぶ米倉さんは本当に可愛らしくて。
『恋する乙女』を具現化した様子そのもの。
那智は呼ばれたことに気付くと少し怪訝そうに眉を寄せた。そして彼女の元へ行くと、無愛想極まりない様子で「…何か用?」と言う。その声は、朝からずっと出していなかったせいか、僅かに掠れていた。
ちなみにこれはわたしが廊下側の席にいたから聞こえただけであって、聞き耳を立てていたわけではない。だからそこら辺は誤解しないで頂きたい。わたしに聞き耳を立てる趣味はありません。…と、話がずれた。
話を元に戻そう。米倉さんは「ここじゃ何だから」と、那智を中庭まで連れ出した。十数分後、戻ってきた那智は無表情だったのに、そっと俯向いて唇を噛み締めていた。
そして後押しと言わんばかりの、帰りに擦れ違った米倉さんの真っ赤に泣き腫らしたような目元。
ここまでヒントを出されて答えを導き出せないほど鈍感ではない、さすがに。
「そんなことも知らないとか」
「だって話したことないし」
「…まあ、那智ならそうだろうとは思ってたけど」
「でしょ?」
「うん。で、告白だったんでしょ?」
「…笑えるよね」
彼はそっと俯向いた。長い睫毛が強調されて光る。それは柔らかい茶色で、改めて色素が薄いのだなと思った。
ふっと皮肉に笑う那智は、どこか中性的な美しさを醸し出している。凡人がやったらただの嫌な奴になってしまうのにな。美形って狡い、と改めて実感した。
…まあ、それを彼が誰より嫌がっているのは知っているのだけれども。