学校一のモテ男といきなり同居
「ごめんね……」



顔から手を外し、自分で自分の手を握りしめる。



郁実とは視線を合わせられないし、俯いたままでいると……。











「なんだ、泣きマネか」



そんな冷たい言葉が降ってきて、ホントに泣きそうになった。



泣くのをこらえてたなんて言ったところで、今の郁実には全部言い訳に聞こえるに決まってるから。



黙ってても、気持ちは伝わらない。



嫌われてるとしたら、もう……これ以上、なにを言っても無駄なのかもしれないけど。



それでも、これだけは言っておかなきゃいけない気がした。



「専門家がどういう基準で判断するのか、あたしにはわからない。だけど……この前、部屋で歌ってくれたよね。

あのとき、すごいって思った……歌で、あんなに感動したのも初めてだし、郁実の声って素敵だって思った」



「お世辞言うなよ……」



「お世辞じゃないよ。誰がなんて言おうと、郁実の歌は、あたしは好き。世界一のアーティストになんて、ならないで。あたしだけのために、歌ってよ……」



あたし、なに言ってるんだろう。



最後はもう、よくわからなくなってきた。



郁実が求めてるのは、こういう言葉じゃない。



それなのに、結局は側にいて欲しいだけなんて、一番嫌がられるパターンだ。



反省しつつ、ひとり落ち込んでいると……。



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