学校一のモテ男といきなり同居
「…大丈夫?顔色悪いよ」



星野さんが、あたしの肩にそっと手を置いた。



なんだかホッとしたからか、今は男の人に触られても大丈夫だった。



「はい…あの、あたし…もう帰ります…郁実に、そう言っておいてください」



「郁実くんの知り合い…だよね。さっきの感じだと、ただの友達って風じゃなさそうだ。

もう遅いし、勝手に帰したら何言われるかわかんないから、もう少し居なよ」



「で、でも…」



「気になることがあるなら、きちんと話し合った方がいい。家に持って帰っても、苦しいだけだよ」



星野さんは、あたしが郁実の彼女だって知っているかのように、そんなことを言う。
 


だけど、言う通りだ。



このまま帰っても、あたしはきっとずっと悩み続けるはずだから。



「はい…しばらく、ここにいていいですか?」



「もちろん。俺も、ちょうど話相手が欲しかったんだ」



優しい人だな…。




あたしが聞きたがっていると察したのか、



星野さんは、この1年の郁実の話をしてくれた。








高木さんに連れられ、



着の身着のまま、ここに住み始めたこと。



なんでもいいから、仕事を紹介してくれって頼んでいたこと。


芸能事務所としての仕事はまだないから、



深夜のコンビニや、飲食店でのバイトを、空いてる時間に入れてなんとかやってきたって。



たまたま今回大きな仕事が来て、波に乗れそうなこと。



今日遅くなったのも、タレントとしての仕事ではなくて、



生活していくための、普段のバイトが入っていたからだという。



そんな…。



郁実は、お父さんに許してもらって、こっちにいたわけじゃないの?



生活が困難になるほど、バイトしなきゃいけない状況ってどういうことなの?



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