学校一のモテ男といきなり同居
アパートまでは、ほんの5分ほどなのにとっても長い時間に感じられた。




アパートに到着すると、高木さんが口を開いた。




「明日は、現場で待ち合わせしよ。おやすみ…」




そう言って、2階へあがろうとすると。




「待って」




郁実が高木さんを引きとめた。




期待をこめた瞳で、高木さんが振り返る……。




「俺……事務所を出ていく」




えっ。




郁実の言葉に、唖然とするあたしと高木さん。




ちょっ……どういうことなの!?










「世話になったことは、また違う方法で恩返しするつもり。これ以上、俺…ここにいられない」




さっきと言ってることが違うよ!?




だけどあたしより、当然、高木さんの動揺の方が上回っていた。




「なに言ってるの!?冗談だよね……これから仕事も増えていくのに、郁実がいなくなったらウチの事務所、確実に潰れちゃう」




「高木ちゃんなら、大丈夫だって」




「無責任なこと、言わないで!この1年、誰が面倒みたと思ってるの!?ふざけんじゃないわよっ!!」




高木ちゃんが怒りをあらわにして、郁実にくってかかる。




「恩知らずな俺を、どうか解雇して下さい」




「なっ……。真央ちゃんがそそのかしたんだ?」




高木さんがあたしをニラんでくる。




「ち、違っ……」




「コイツは、関係ない。俺が……そう思っただけ。俺のやりたいことって、なんだったっけ…って改めて気付かされたんだ」




え……。




どういうこと?




今、全てがいい方向に向かっているのに。




今さらそんなことを思うの?




不思議に思っていると、郁実があたしを見る。




その優しい眼差しに、改めてドキドキさせられた。



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