嘘の誓いとLOVE RING


部屋を出た瞬間、またもや凌祐と出くわした。

今夜は佐倉さんも一緒だ。

声をかける気力もない私は、ただ会釈をして圭祐の側に寄り添う様に歩く。

そして私たちの一歩前を歩く凌祐は、隣にいる佐倉さんに声をかけていた。

「唯香、今夜は送るよ。一緒に帰ろう」

一緒に帰る…。

それは、ほんのこの間まで、私に向けられた言葉だったのに。

佐倉さんは、遠慮する事なく「はい」と返事をすると笑顔を浮かべた。

遠慮くらいしろ!

と、心の中で突っ込んでみたけれど、それが届くはずもない。

だけど、圭祐には届いたのか、これみよがしに私に話しかけてきたのだった。

「今夜は、美亜が行きたい店に連れて行くよ。どこがいい?」

この“振り”は、明らかに凌祐たちに対するあてつけだ。

圭祐はきっと、私の気持ちを察したに違いない。

少しだけ、凌祐が振り向いた様に見えて、私の悪魔の心に火がついた。

「ゆっくり出来る場所がいいな。圭祐と、ゆっくり話しが出来る場所」

努めて明るく、そして可愛いげのある言い方で返す。

すると圭祐も、それに乗ったのだった。

「じゃあ、行きつけのバーにしよう。顔パスがきく所があるから」

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