なにやってんの私【幸せになることが最高の復讐】

「その人はホテル暮らしで、もしかしたらそこ以外にも家があるかも知れなくて、出掛けるのは朝早く帰りは夜遅く、そしてその男の名字しか知らないって、致命的じゃん。もう1回聞くけど名前すら知らないんでしょ?」


 ...もう1回聞かないでください。ぐっさり心臓に言葉が突き刺さりましたから。


「そうなんですよ。名前すら聞いてなかったんです私。店長に言われて初めて気づきました(泣)ほんとバカですね、今までなんとも思わなかったもん」

「っはーーー。なんでそこスルーしちゃうかねぇ。完全に終わってるねそれ。終了だよ終了、さよなら」

「またそんな言い方ー」

「ホテルで生活、名前知らない、何をやってるか分からないって、あんたそれどう考えてもおかしいと思わない?」

「だって、私が思い出すまで何も教えないって言ってるし」

「だからってねー、ちゃんと聞きなさいよ大事なところはさ。名前知らないってあんた恋愛における土俵にも乗ってないってことじゃんさ。てか、いつまでもそこにいないでそこ早く出なさいよ」

「だからスタジオに寝泊まりさせてって言ったのにー」

「アホかっ! っとにあんたはだか...ん、ちょっと待ってよ」


 急に話を切って何かを思い出すようにぶつくさ独り言を始める店長に、『独り言言ってますけど』とつっかかってみるけど、うるっさいと簡単にいなされ、撃沈。


 はぁ、私弱いなぁ。こんなくにゃくにゃしてちゃダメだよね。

 真の話になった時だって、店長は、私だったら部屋追い出されて昼に荷物取りに来いとか言われて、そんで帰ったら知らない女とベッドにいたら、両方ともフルボッコだけどね。

 顔面はもちろん精神的にもぼっこぼこにするよ。と、怖いことを言い、ここに送りつけてきた荷物だってのしつけて送り返すわ、倍返しだよって、なんとも強いお言葉をいただきました。


 私はできないよー。それできたらたぶんこの状況にはなってないし、あのバーにも行かなかったし萩原さんとも会ってない。


 あぁ、そっか。会ってないんだ。


 いやいや、待って待って、真の話だよね。

 頭に来て切れそうになったのは確かだけど、発散する前に飲み込んじゃうもん。昔からそう。私が我慢すればそれで終わるって思ったら、我慢しちゃう。






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