なにやってんの私【幸せになることが最高の復讐】

 店長と話してて気づいたことがある。

 私、メールしたり電話したりって、したことない。

 一方的に萩原さんから連絡くるだけで、私からってしたことなかった。


「えーと、だからねなっちゃん、よーく聞いてよ」

「さっきから店長の暴言に、耳が痛くなってますけどちゃんと聞いてます」

「あんたよく言うよねー。ま、いいか。今後の私の立場を考えたらそうよね、それでいいし」

「またぶつぶつ言ってますけど。立場? なんですかそれ」

 コホンと咳払いをひとつ。

「なっちゃんね、ぶっちゃけて言うけど、その萩原さんとかいう人のこと、たぶん君は好きだよ。てか、好きになりかけてる」


 ん? え? ほお。


「自分でねそれセーブしちゃってるけどね、出会い方があれだからそうしちゃう気持ちはよーく分かるんだけど、でもその気持ちは閉じ込めない方がいいと思う」


 きっぱりと言い切った店長に逆らうことはできなくて、

 でも、なんかそれ言われてすっきりしてる自分もいて、

 好きになってたのは気づかないようにしていた自分を、こうもあっけらかーんと容認させられると、それはそれで『はい、そうなんです』と、認めちゃいそうになる自分もいて、


「萩原さんに乗っかっちゃいな。両方の意味で」

「やめてくださいよそれ」

 お酒が入ると若干下ネタにもいっちゃう店長も、もちろん嫌いじゃない。仕事でもプライベートでもお世話になりっぱなし。


「メールしてみなよ」

「はい?」

「今から帰るよって」

「そそそ×10そんなことしたことないしっ」

「だからやれっつってんじゃん。トロい奴だなぁ」

「えー! なんか緊張しちゃいますし」

「中学生かおまえはっ! そんなんだからあのクソキモ男に好き勝手やられんだっつーの。はい、電話」

「メールじゃないんですかぁっ。って、キモ男まで言うー?」

「もうなんでもいいから早くしなよ」


 突き放されても着いてく私に、その性格どうにかなんない? と、真顔で言ってくる店長。

 私はやはり眉毛八の字のままドキドキしなければならないシステムになっている。





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