なにやってんの私【幸せになることが最高の復讐】
「こんにちはー」
フロントで二人で話していると、スタジオの入り口のドアが開いて冬山君が入ってきた。
「冬山君。どうしたの」
また来た。仕事帰りなのか仕事中なのか見極めるのは難しいけど、その手には小さい紙袋をぶらさげている。
「あ、いつぞやのどうしようもないなっちゃんの友人。どうしました? 入会ですか?」
「店長!」
嬉しくない顔を全面に押し出して店長が冬山君に言う。
「いえ、今日はあなたに話があって」
「私に? なっちゃんじゃなくて?」
「はい、店長さんに」
遅れましたがわたくし... と、さりげなくカードケースを内ポケから出して名刺を店長に差し出す。そうされたらスタジオの看板を背負っている店長も対応しないとならないわけで、いつの間にか名刺を用意していて、お互いに名刺交換していた。
インストラクターになってからそういう機会はめっきりなくなって、むしろ必要の無いことになってしまったから、とても新鮮な光景。
「桜さんに言われて気付きました。なっちゃんに申し訳ないことしたって思って、嫌な気持ちにさせてしまったのは私の責任で、だからどうしても一言おわびとお礼を言いたくて、お忙しいところ承知で伺いました」
「私も初対面の方に向けて言うことばじゃありませんでした。失礼しました」
二人とも打ち解けたように見えた。店長のことばにもトゲがなくなったから和解したんだなって思った。
「でも冬山さん、残念なお知らせですが、なっちゃんにはもう、素敵な彼氏がいますよ」
「店長...」
「分かってます。なっちゃんとは古い付き合いですからこれからも暇なときとかお互い時間があるときには会ったりしたいなと思っていますけど、萩原さんが相手じゃかないそうもないので」
店長の言葉を遮ろうと言葉を挟んだところを冬山君に遮られ、冬山君の気持ちを聞くことができた。もちろん、私も機会があれば同じようにそう思ってる。