なにやってんの私【幸せになることが最高の復讐】
「野々宮のところにいた」
躊躇なく言われたら力が抜けてしまって、壁に背中をドンとぶつけた。
後ろに倒れそうになったと思ったのか、私の肩を掴んだから萩原さんもシャワーの中に入ってしまって、二人して頭かお湯を浴びている状態になって、
「ずっと?...ずっといたんですか? ふ、二人で?」
「...ずっといた」
「...それな、のに、なんで彼女とか彼氏とか、そんなことが、い、言えるんですか。ふざけてるんですかっ! 信じられない」
「最後まで聞いて」
「...無理です。聞きたくないです! なんでこんなことするの...ひどすぎっ。出てってください。人のことバカにしてるんですかっ!」
涙が溢れてきてるけど、シャワーと混ざって流されているから泣いていることは分からないと思う。
「もう、こっちにこないで...」
悲しくて、切なくて、怒りと織り混ざった気持ちが爆発寸前で、触られたくなくて肩をつかまれている手を振りほどこうともがいた。
「だからちゃんと聞いて」
「やめてっ...放してください」
捕まれている手を払い除けようとしたそのとき、ぎゅっと力任せに抱き締められて動けなくなって、
こんなところで何してんの! って思ってなんだか惨めになって恥ずかしくて、
だから触られているのがすごく嫌で抵抗して、でも抵抗したくなくて、側にいたくて、でも側にいたなくて葛藤して...
「なにもないから」
耳元で言われたことばで動きが止まった。
「なにもしていない」
繰り返された言葉は頭にすんなり入って、
しばらく頭が働かなかったけど、
「お前が思ってるようなことは何もしてないよ」
「でも、一晩中...いたんで...しょ」
「...みっともない話、かなり酔っぱらってたから、そのまま寝ちゃってた」
「...だって、そ、そんなことってありますか? う...嘘じゃない?」
「俺そんなに器用じゃないよ」
「......」
「信じられない?」
「......いえ、ちゃんと話してくれたら...たぶん」
「嘘は言わない」
聞きたかったことばに凍りついていた心は少しずつ溶け始めて、
両手を背中に回して抱き締めてみたら、私がつけた背中の傷はまだ消えていなくて、