なにやってんの私【幸せになることが最高の復讐】
寝室の戸が引かれ、泣きながら例の女性が出て来た。
「待てって、あかり!」
......あかりちゃんって言うんだ。
泥沼劇場を後ろの方に感じながら私は淡々と荷物をまとめる。
「あ、あの、彼女さん、ごめんなさい。私帰りますから、そんな荷物なんてまとめないで下さい」
「......いえ、いいですよ。私はもうなんの気持ちもありませんから」
そう、すーーーーーーっと、冷めた。
今日の午前中まではたぶんまだ好きだった。でも、今はもうどっちかって言ったら嫌いの部類にシフトチェンジしている。
女って怖い。冷めるときはすっと冷めるんだから。
「いえいえ、ほんとにもう出て行くのは私ですから......」
ぼろぼろ泣きまくる女性は顔がくしゃくしゃになっていた。そんな彼女の腕を掴むように止める真の目には、もはや私は映っていないだろう。あなたのすぐ横で、しゃがんで荷物をまとめている、(元)彼女の私の存在なんて、忘れているようにしか見えない。
「帰るのは私です」
スーツケースの鍵をかけた。ひとまずのものは入れた。
「......残りはスタジオに送って」
その意味は分かるだろう。寝室に残っている私のもののことだ。
真は何も言えずに私と、あかりちゃんを交互に見て、どうしようかとでも考えているのだろう。
「じゃ。さよなら」
3年の年月はそれなりに大きいと思う。
そこに詰まっているものだってそれなりにある。
その最後が、『じゃ。さよなら』
こんな簡単な言葉一つで、終わった。
始まりもなんとなくなら終わるのもあっけないものなのか。
不思議なものだ。
3年間かけて作ったお城は、補強しながら強いお城になるように作っていたつもりだ。
でも実はそれは砂のお城。
いきなりの突風と雨と嵐とどこからともなくやってきた波に耐えられなくて、お城のてっぺんから飲み込まれ、
あっという間に崩れ落ちていった。