なにやってんの私【幸せになることが最高の復讐】
左手で顔の左半分を隠すように覆い、がんがんする頭を落ち着かせ、ソファーの前に回ってそこに正座して、いまだ寝ているその男の人をじっと観察した。
彼もまた裸だから、間違いなくやったに違いない。
ブランケット一枚を身体にかけて気持ちよさそうに寝ている。
黒髪は目にかかるほどの長さで、堀は深くまつげは長い。きっと正面からしっかり見たら綺麗な顔なんだろうなってくらい、いい顔をしていた。
身体もいい身体だ。
そんなことを考えてたら、私の身体の奥の方がじゅんとなった。
本人は記憶にございませんが、体(子宮)は正直に覚えていらっしゃるようで。
どうしよう。どうしたらいいんだろうか。
この場合、このまま静かに着替えて速やかにここを後にした方がいいに決まってるよね。
なにごともなかったようにして帰るのが大人の礼儀だよねきっと。知らない人の場合は。
そもそもが、私は同棲だってしているんだから、いや、厳密にはしていたになるわけだけど。
昨夜追い出されるまでは。
「あぁ。嫌な記憶が蘇ってきたじゃん」
小さく溜息をつきながら肩を落とし、目線はおへそ。鼻から大きく息を吐く。
よし、もうこうなったら仕方ない。この人が寝ている間に素早く部屋をあとにしよう。
起こさないようにそっと立ち上がって、静かに今来た部屋に戻ってその辺に散乱している自分の下着や服をかき集めて着替え、バッグの中に入れてあった化粧ポーチを出して崩れすぎている化粧をなんとか形になるくらいに直す。
よし、帰ろう。静かに気付かれずに帰ることが第一のミッション。
深呼吸を一つ。コートを深く羽織って部屋を出た。