なにやってんの私【幸せになることが最高の復讐】

 ......


「なんですかそのありきたりな申し出」

 若干呆れた。

 だってこんな少女漫画チックな取引なんてもう、陳腐極まりない。

「勘違いすんな」

 いきなり声のトーンが下がった萩原さんの顔を見上げたら、笑顔すらもない。

「俺はお前が考えているようなそんな安っぽいことなんか言わねーよ」

 左の口角をぴしっと上げて白い歯を少しだけ覗かせた。

「...そういう意味じゃないんですか?」

 昨夜だってやっちゃったんでしょ?

「昨日はお前が俺を押し倒した」

「っはーーーーーーーー」

 この人はいったい何を言っているのでしょうか?

「はーじゃねーよ。それを言うのは俺の方。言わば俺は被害者」

「更に信じられないんですけど」

「俺も信じられないよ。こんな肉食は未だかつて見たことがない」

「...やめてくださいよ」

「お前の仕事は?」

 私の仕事? ヨガ?

「まさか」

「それだよ。それで払ってもらう」

「...いつものことなんですけど」

 そんな簡単なことでいいんだ。

「簡単だろ?」

「はい」

 鼻で笑った萩原さんは、その1の実行を一週間で成し遂げることと、日程のノルマを与え、仕事があるから出かける。今日は帰らないから好きにしてろと言い残し、スーツの上にコートを羽織って風のようにするりと部屋を出て行った。


 残された私はまだソファーで正座をしたままだ。

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