なにやってんの私【幸せになることが最高の復讐】

 時間をかけてメイクをしたあかりちゃんは最後にベイビーピンク色のグロスをその小さい唇に乗っけてにこっと鏡越しに笑った。

「それでは、ありがとうございました」

 私はにこりと笑って、一月ごとのスケジュールはサイトに載っていますので、お時間の空いている日にでもまたどうぞ。と営業トーク。

 井上あかりちゃんは(なぜフルネーム?)体験レッスン後に契約し、新しくここの会員さんとなった。

 嬉しいような、嬉しくないような、なんだかとても複雑な気分。


 真っ白いコートに腕を通し、ピンク色のマフラーを巻く。

 あぁ、これだ。この感じ。私には無い感じ。


「では」

 礼儀良く再度頭を下げてスタジオのドアを開けて、真冬の夜へと消えて行った。

「あ、そうだ。夏菜ちゃん、ちょっと下のコンビニに用事があるんだけどお願いしていい?」 

 店長の用事は今に始まったわけじゃない。

 どうせ通販で買い物した後払い代金の支払いだろう。

 すぐそこなのに、行くのが面倒くさいらしく、いつも私が行くはめになっている。そして、荷物は自宅じゃなく常にスタジオっていう徹底ぶり。

 私は、払込用紙とお財布と携帯を持って数分前に出て行ったあかりちゃんの後を追うように外に出た。

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