なにやってんの私【幸せになることが最高の復讐】
「夏菜ちゃん今何時か知ってる?」
「23時過ぎ」
「正解。俺たちあれからけっこうな時間一緒にいて話してたよね。彼氏だって心配するでしょ」
「彼氏...ねぇ」
彼氏かぁ。
萩原さんは今のところ私の彼氏になっているみたいだけど、どうやってそうなったかの経緯が思い出せないし、聞いても意地悪して教えてくれないから、本当にそうなっているんだかも定かじゃないんだけど。
と、私は思っている(いまだにね)
だって、さっき気付いたことだけど、
私何も知らない。
「挨拶だけしたら帰るよ。だから気にしなくていい」
「そんな。なんか悪いよ」
「何言ってんの。俺たちそんな短い付き合いじゃないでしょ」
「でも...さ」
「はい、これ以上気をつかうのは無し」
「......」
「わかった?」
こくんと頷くと、冬山君は私の目線と合うように少し腰を落として優しく微笑んだ。
こんなに優しい人だったっけ? 記憶ってなんて曖昧。
大人になるにつれて削り取られていく昔の記憶をたぐり寄せてもやはりはっきりとは思い出せなかった。
そんなことを一人、ぼーっと思っていた時、上階から降りてきたエレベーターのドアが開いた。
そして私は目を大きく見開き、口をぽっかーんと開けることになった。
そう、そこにいたのは......すごく怖い顔をした萩原さんが一人、エレベーターの真ん中に腕組みをして立っていた。
仁王立ち。
まるで私と冬山君を観察するかのように、降りることなくそこに立っている。
...はい、怖いです。
目が、とっても怖いです。
別に悪いことしているわけじゃないんだけど、なんか悪いことをしている気分になる。