なにやってんの私【幸せになることが最高の復讐】
「あのっ、私が...」
「これから探しに行こうとしてたんですが、良かったですよ。ありがとうございます。助かりました」
私のことばを遮りながら萩原さんはつかつかと歩いてきて、私と冬山君の間に入り込み、何気なく冬山君を車寄せの方へと誘導する。
二人で何かを話しているけれど、置いてかれている私はただただ二人の背中を目で追うことしかできない。
同じくらいの身長。体格は冬山君の方ががっちりしてる。スタイリッシュさは萩原さんのほうがあって、
仕立ての良いスーツを着ている二人は端から見たら仕事か何かで来ているビジネスパートナーとでも映るのだろうか。
なんてことを呑気に考えている私はエレベーターの前で突っ立って、部屋に戻った時にどういうふうに話を切り出そうか考えていた。
宿泊客らしき外国人の団体をかわしながら、いくつかあるうちの一番奥のエレベーターの前まで移動して、雑踏の中に紛れた。
しばらくして一人で戻って来た萩原さんは、口角を上げて優しい笑みを浮かべながら、素晴らしくきれいな歩き方で颯爽とロビーを抜けてきた。
「あのっ、萩原さ...」
何か言われる前に先に今日の出来事を言ってしまおうと口を開いた。
だって、優しそうな笑顔だったから、大丈夫だって思ったし。
言葉の通り、目の前。私と萩原さんの距離、手を伸ばせば相手に触れられる距離。
私の背中側にはエレベーターの扉。
萩原さんの背中側、ロビー。
今までの笑顔はどこへ行った。
いつの間にか笑顔は消え、ゆっくりと確かめるように瞬きをして、氷りのような冷たい目に変わり、私を見下ろす。
もし他人だったら間違いなく目をそらして、近寄りたくない...
うう...怖い。さっきの笑顔はなんだったの? どこに行ったの? 目をそらしたいけど、それすらも許されない雰囲気だ。