なにやってんの私【幸せになることが最高の復讐】
その日1日は意図的に忙しく動き回り、怒りを忘れることに神経を使った。
もちろん仕事もきっちりこなした。決められたたくさんのポーズを時間内に入れていかなければならないので、集中しないと間違えてしまう。
私が間違えると、自分の中に意識を向けている会員さんの集中力が途切れてしまうことになるので、意識して指示していかなければならない。従って、余計なことを考えている暇はない。
その後は他店に応援に行きレッスンをこなし、スタジオに戻ったのはまたも夜も23時を回ったときだった。
「なっちゃん、お疲れ! どうだった? 疲れたでしょ」
「はい。疲れたの一言です」
「だよね。はははは。あ、あんたの段ボールね、邪魔くさかったから勝手に開けたよ」
「うそ! 中身は?」
「そこ」
顎でその場所をさして、そこに目を向けて、
ってこれだけ?
荷物置き場には開けられた段ボールがひとつだけ。
その中には見覚えのある服や小物類、見覚えのないものもちらほら混ざって置いてある。
段ボールひとつで足りてるじゃん!
あんなに山積みだった中身はこれだけ? 嘘でしょ? じゃあ、あとのはなんだったの。何が入ってたの?
「これだけですか? 本当に? 他の段ボールは?」
「それだけ。それだけの小さなものをわざわざ一つ一つ大きい段ボールに入れて、ご丁寧に送ってくれたわけよ。ちなみに段ボールの中は新聞紙とエアパッキンの山だったわよ」
「なんですかそれ」
「手の込んだことするよね。あんたのそのイカれた元カレって、そんな暇なの?」
フロントの壁に雑に寄っ掛かり、ネイルの施されたきれいな爪でせわしなく壁を叩くその態度から、店長が怒っているのがよーく分かる。
それをしたいのはむしろ私のほうなんだけど、でもそのおかげでムカつきさ加減は半減した。
懐の事情も半減したけどね。
「あと、メモが一枚」
「メモですか?」
「そ」
店長のその『そ』が出るときはだいたい機嫌が悪いとき。