②灰川心霊相談所~『闇行四肢』~
喫茶店は高いからと、篠林刑事は近くのファミレスに私達を連れ込んだ。
灰川さんが今回の依頼内容について説明し、『三船慎吾』をはじめとする犠牲者の自宅の捜索をさせて欲しいと彼に頼む。
ここで警察署に向かっていた意味がようやくわかった。
「オイオイ! またかよォ。現場にどう説明するつもりなんだよ! 無理無理! いくらお前の頼みでも無理だね!」
「無理なんですか? どうせ四六時中警備してるわけじゃないんでしょう。それに、もちろんタダでとは言いませんよ」
「なんだよ、そこの可愛い子ちゃんがサービスでもしてくれるってのか? おお?」
私は灰川さんに隠れるようにして身を萎縮させると、露骨に嫌悪の視線を投げつける。
――本当に口の悪い刑事だ。
単純だが、この人の事は完全に嫌いになってしまった。
「――篠林さん。いつも通りの『取引』をしましょう」
「……ったく。そうくると断りづらいんだよなぁ……。ぜってぇ、こっちの状況見越して言ってんだろ。お前のことだからよぉ……」
――取引?
篠林刑事は頭をボリボリ掻きながら、なにやら検討を始める。
「――勝算はどのくらいなんだよ?」
「決まりきったことでしょう。10割です。いつもどおり、ね」
「……わかったよ。いつもどおり、『情報』はくれてやる。そのかわり『手柄』は俺のものだぜ」
「はい。いつもどおり『結果』は篠林さんに。『過程』は僕がいただきます」
「正直、今回の猟奇殺人は全く進展がなくてな。お手上げだったんだ。……今日の夜中の1時頃、本件最初のガイシャの自宅にきな。場所くらいはわかってんだろ?」
「――どうも。はい、では今夜現地で落合いましょう」
……最低限の事情を話しただけで、あの篠林刑事は全てを理解していたようだった。
それにこのやりとり。
どのくらい前からの付き合いなのかは測れないが、明らかに灰川さんの仕事と、その内容の詳細をわかっている。
舌打ちをしながら千円札を机に投げ、篠林刑事は店を出て行く。
去り際に「妙な真似すんじゃねぇぞ」。と、これまた悪役台詞を私と白条君に吐き捨てていったのだった。