②灰川心霊相談所~『闇行四肢』~
連続猟奇殺人『霊』
『調査』
――静まり返った深夜の住宅街を、私達は歩いていく。
三船慎吾の自宅は、豊島区の郊外にある寂れたアパートの二階。その最奥の角部屋だった。
篠林刑事が鍵を開け、扉を開く。
その瞬間に、中を吹き抜けていく風に、なんとも言い表せない不安を抱く。
「こんな青くせぇガキどもが役に立つのか……? まぁいい。担当が俺一人に任されてる時間はあと1時間程度だ。その間にとっとと済ましちまいな」
室内は几帳面に片付けられていて、小奇麗だ。棚に何冊ものファイルがずらりと並んでいる。
『ポルターガイスト事例集』。
『精神異常と霊能力』。
『惨殺事件被害者リスト』。
およそ大衆に受け入れられる趣の内容ではないのは明らかだ。
「……三船は元記者だ。怪奇現象の特集記事で一躍有名になった経歴があるが、ここ数年はからっきしみたいだったようだな」
篠林刑事が煙草に火をつけながら話す。
その言葉に白条君がやや怪訝そうに睨み返していた。
「――ここが遺体発見現場ですか」
灰川さんは大きな洋服箪笥の前で静かに呟く。
「なるほど」。
酷く傷んでいる、かなり年季の入った箪笥だった。
明らかに異様な存在感を放っている。
暗がりでは、大きな怪物が口を開けている様に見えてもおかしくないとさえ感じる。この一連の事件全てに関連しているであろう『箪笥』というキーワード。よく調べておいたほうがいいだろう。一周して注意深く観察してみると、裏側に文字が刻み込まれていた。
――『Sarah』。
外国人の名前だろうか? サラ? セイラ?
「ああ……。だが、三船はこの後に続く被害者に比べればまだマシなほうだぜ。なんせ残りの6人は」
「――四肢を引きちぎられていた」
「……なんでお前がそれを知ってんだよ」
「……では、三船慎吾の死体はどのような状態だったんですか?」
耳を塞ぎたくなるような会話だった。仮にも身内である白条君がいるというのに、配慮のかけらもない。
「絞殺死体だ。酷いのは、そうだな。表情だ。どんなオソロシイもんを見たのか知らねえが、自分で自分の目ん玉を潰してやがった」
「なるほど」
灰川さんは口元に手を当てながら、天井を眺める。
いつもの、思考中のしぐさだ。
「遺留品を拝見しても?」
「好きにしな」