②灰川心霊相談所~『闇行四肢』~
『半年後』
――あの冬の惨劇から、もう半年以上が経つ。
季節は夏を迎えていた。
都内の某国立大学の三年生になった私は、単位と家賃。そして『仕事』に追われている毎日だった。
私の上司は、それはもう人使いが荒い。革命を起こす日もそう遠くないかもしれないと、常々思う。もっとも、夏休みに入ってからは久しぶりに長い休みをもらっているので、なんとか思いとどまっておくことにするが。
最近になって、ようやく私の精神が『定位置』についてきたことを自覚できるようになった。この半年の様々な経験が、今の私の記憶として新しくアイデンティティを得ているのがわかる。
変わったことはと聞かれれば、それはそれはもうたくさんあるのだが、以前と比べて最も大きく差異があるのはやはり私の体質についてだろう。
「……んー。あー、やっぱ着いて来ちゃう……?」
「えっ? なに、どうしたの夕浬」
「え、いや、なんでもないよ! だいじょぶだいじょぶ、ハハ」
「もー……ちゃんと私の話聞いてた―? 30日サークルの皆で沖縄だかんね!」
「わかってるってば。柚子と一緒に水着も買ったし、万事抜かりなしだよ!」
「だね! それじゃ私これからバイトだから、また明日ねー!」
改札の前で小動物のような愛らしい笑みを振りまきながら、柚子はそのまま手を振り去っていく。
私はその姿が見えなくなるまで見送ると、電車で最寄り駅まで戻る。アパートの前に着いたところで、大きくため息を吐き出した。
――振り返り、声をかける。
「――いつまで、ついてくる気ですか……?」