ひとときの恋
 あら、言われてみりゃあたしの分のご飯がないわね。

 土方は朝飯はいつも自室で食べているんだ。朝は低血圧だから中々起きれなくて、いつも間に合わないんだとさ。

 だから土方は他の隊士より少し遅れて朝飯を摂るんだけど、まぁ一人じゃ可哀想だとあたしも遅らせて一緒に食べるわけ。


「実は鈴さんにお客様がいらしてるんですよ。お待たせするのもなんだからととりあえずその方がお帰りになってから朝食をと思いまして」

「あたしに客? 誰さ」

「はぁ、えっと……」

 ハジメちゃんは思い出す様に視線を上に向ける。暫らくうんうん唸った後、ポンッと手を叩いた。


「そう。確か明里と言う女性の方でした。客間の方でお待ち頂いております」


「明里姐さん!?」


 客の名前を聞き、あたしは飛び上がる様に立ち上がった。


「知ってんのか?」


 見上げ聞いて来た土方にあたしはブンブンと頭を上下にふった。


「あたしが廓にいた時一番世話になった姐さん女郎さ。婪華廊(らんかろう)の一番人気の女郎……天神だよ」


 京都に来たばかりの頃。右も左もわからなかったあたしの面倒を見てくれた人。女郎の仕事も明里姐さんが仕込んでくれたんだ。

 そのお陰であたしは婪華廊の二番手を張る事が出来た。並み以上の生活が出来る様になったんだ。


「でも何で明里姐さんがここに……何かあったのかしら」


 天神ともなりゃ外出は女将さんの許しさえありゃ自由だけど、出かけた先が新撰組屯所なんてちとヤバいんじゃないのかい?


「あたしちょっと行ってくるわ」


 土方の部屋から飛び出ると、客間に向かってバタバタと走り出した。



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