「記憶」





しばらく沈黙が続いて…

先生はゆっくり口を開いた。




「ああ…」


…と。




悲しくなんかねぇよ、とか

言われると思っていたから

その返しは少し意外だった。




「橘花」

「はい」

「お前、飯食ってねぇんだろ。
ほら、これ食っとけ」




ポイッとパンが入った袋を投げられた。


中には缶珈琲も入っている。





「え、これ……」




先生のご飯じゃ……




「いい。まだ職員室に置きがある」




そう言って、先生は

校舎の中へと歩いて行ってしまった。


“授業に遅れるなよ”と言って。





先生の背を見送ってから、

私は空を見上げて

袋に入ったデニッシュを頬張る。





「……先生、よく食べるな」




職員室に置きがあるのか…と

パンを食べながら思った。






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