「記憶」
実は…海に一度も行ったことがない。
前世でも今世でも。
何度か友達に海に行こうと
誘われた事があったけど、
なんとなく行ってはいけない気がして
全て断ってた。
……けど、思い出した今では
その理由がわかる。
だって、レオンと
海に行く約束をしていたから。
……その前に、私は死んでしまったのだが。
「貴方との約束を果たしたい。
海を、見たい」
「…ああ」
私の言葉に軽く返事をして
ふわりと髪を撫でられた。
そして、胸ポケットから
手帳とペンを取り出したかと思うと
なにやら書いて千切った紙を
私に渡してきた。
「海には休みの日、万が一の事を考えて
早朝連れて行ってやる」
「これ……」
「俺の連絡先だ。便利な時代だよな。
ああ、住所はまた今度言う。合鍵も用意しておく」
レオンの言葉を聞きながら
携帯の番号とメールアドレスが
書かれた紙を見てにっこりと笑う。