咆哮するは鋼鉄の火龍

奪還するは復讐の決死兵

 夜明けより少し前、復旧作業に追われていた乗組員達は戦闘開始前からずっと気を張り続け働いていた為、休憩に入ると直ぐに眠りについた。

 しかし、そのタイミングを狙ったかのように現れた敵影に気付いた南方の斥候が証明弾を挙げる。

 火龍の監視員からの緊急信号で全員が怒りの混じった文句を言いながら一斉に跳ね起き戦闘体制へと入る。

 立花は外で眠っていたので、急ぎ主砲車の一層にいる本多の元に走った。

立花
「来たぞ!お仲間だ!

 いけるか?」

本多
「バイクを」

 本多は痛みを無視し、外に停めてあったエアロバイクに乗り南方に走った。

立花
「佐竹さん、地雷は?」

佐竹
「火龍後方を中心に、現在は無効化しています」

立花
「直ぐにでも使えます?」

佐竹
「何時でも、しかしいいんですか?

 逃げてしまうんじゃないですかね、相手はレッドキャップですよ?」

立花
「嘘をついてる様には見えなかったんですがね」

佐竹
「ふん、しかし遅い」

立花
「もし本当の話なら説明するのに時間がかかりますよ、嘘でも奇襲か逃亡かを決めるのにも時間がかかるでしょうし」

 本多が出発してから三十分が過ぎた頃、上半身裸の四人の男達がシャツで作られた白旗を掲げながら斥候と一緒に歩いてきた。

立花
「佐竹まだ油断するなよ」
 
 佐竹は手動の起爆スイッチを構えた。
 
 男達は両手を頭に付け、膝を付き代表の男が喋りだした。

代表の男
「本多隊長は発電所の地図を取りに向かった。
 
 我々も作戦に協力させてくれ、必要なら拘束してもらっていい」
 
 立花の命令で男達は後ろ手に縛られたが、丁寧に指揮車に入れられた。

立花
「すいませんね、用心深くて」

代表の男
「いえ、逆の立場なら我々も同じ事をします」
 
 四人の男達に東名軍の情報を聞いている間にエアロバイクが外に止まった音が聞こえた。

 指揮車へと鍋島に銃口向けられながら本多が入ってきた。

 縛られた部下達の姿を見ても一切動じる様子は無かった。

本多
「どうだ、用心深い人だろう?

 立花殿これがさっき言った地図です。

 燃えてなくてラッキーでした。

 これで少しは信用されますかね?」

 立花は軽く頷き目線を地図に見やった。

立花
「発電所上部の丘のソーラーパネルの位置に迫撃砲が置いてあるが、まさか」

本多
「ソーラーパネルは持ってかれてますよ」

立花
「やってくれたな、トーチカの数も増えているし、それに線路も本線が曲げられて、複線に切り替えないと発電所にたどり着けないようになっているのか?」

本多
「あまり心配しなくても、あなた達に頼みたいのは2つだけだ。
 
 俺達にやらせてくれ、考えがある」

立花
「聞こうか」
 
 本多の作戦は魅力的であったが、あまりにも自滅的なものだった。

立花
「その怪我で上手くいくとは思えない。

 それに失敗すれば貴方達は全員死ぬのでは?」

本多
「交渉する立場で無い事は分かっているが、それを承知で言わせて貰う。
 
 もし作戦が成功すれば我々の家族を難民として保護する事、もう一つは今後の事を考えて先程戦死した仲間を殺したのはゴブリンであると家族に伝えて欲しい。

 もう無関係の者を恨みの円に巻き込みたく無いんだ」

 本多とその部下の意思の強さはその目を見れば立花にも分かった。

 死ぬ気なのであろう。

 戦争だから仕方ない…という大前提があるとしてもそこまで追い込んでしまった事に立花は引け目を感じていた。

立花
「…約束しよう。

 我々にはリスクは少ない作戦だが、もし我々を裏切って迎撃体制をとっても簡単に皆殺しに出来る作戦が私にある事を忘れるな」

本多
「あなたなら、そうでしょーね」

立花
「佐竹、各員に通達。
 
 作戦開始は二日後とする。
 
 本多殿以下はそれまで警戒車両に軟禁状態ではあるが体を少しでも回復させてください。

 佐竹は警戒車両に準備を、あとロープを切ってあげてれ。

 本多殿、納得出来んだろうが戦死者を我々で弔ってやってもよろしいか?」

 二日の回復の猶予を貰い、尚且つ焼けた仲間を敵でもあるにも関わらず埋葬してくれるという立花の言葉に本多は一気に関が切れた。

 今までの戦いの疲れや、後の無い土壇場の状況での一筋の希望を見て本多は涙を流した。

本多
「宜しく…宜しくお願いします」
 
 本多は頭を地に着けむせび泣いた。

佐竹
「余程辛かったんですね」
 
 立花はこの瞬間本多を全面的に信頼する事にした。
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