咆哮するは鋼鉄の火龍
 茶屋が何とか去り、夜明けに火龍もまた出発し本多達の作戦が開始された。

 本多は未だに血が滲む傷を何重にも包帯で固定して隠し、何食わぬ顔で発電所にエアロバイクで入って行った。

東名軍兵士
「止まれ!…充電か?」

本多
「ああ、小競り合いが増えて来たからな、あと大型トラックを貸してもうぞ、奪った食料を運ぶんでな」

東名軍兵士
「…いいだろう、その顔の傷、かつての騎兵隊の隊長殿も手こずっている様だな?」

本多
「ああ、今度の敵の指令官は中々の奴でな、それより皆の家族は?」

東名軍兵士
「ああ、あの中で大人しくしてるさ」

本多
「充電している間に顔を出させてもらう、それより援軍は来ないのか?

 そろそろ俺達も長くない」

東名兵士
「俺達はお前らみたいに強化人間じゃないんだぞ」

本多
「手術を受けたのは俺だけだ、このままじゃあ全滅する」

東名軍兵士
「亡命者に意見は求めん。だが、もしそうなればお前等の家族も危ういな?」
 
 本多は兵士の脅しに舌打ちで答え、バラック小屋に向かった。
 
 扉を開けると湿った不衛生な部屋に監禁に近い形で本多の部隊達家族が押し込められていた。

 女が1人走り寄ってきた。

 知っている顔だった。ただ彼女の夫は先日死んでしまっていた。

 本多はこの二人を良く知っていた。思わず目を伏せた本多を察した女は今にも泣き出しそうであった。


「夫は無事ですか?」

本多
「ゴブリンに襲われた。

 もうこれ以上ここにはいられない。

 東名は俺達を全滅するまで戦わせるつもりだ。逃げるぞ」


「ああっそんな」
 
 女は悟った様に泣き崩れた。

本多
「今は生きる事を考えてくれ。

 だから良く聞くんだ。

 今からトラックをこの前に停める。

 合図があったら全員乗り込め、箱根に再度亡命する。

 お前が仕切れ、いいかこの壁から離れてろ」
 
 本多はむせび泣く母の肩を抱く一人の少年に向かっていった。

 少年は頷き、本多はただ「強いな」と言った。

 本多は小屋を出ると発電所の責任者がいる建物に向かい、血走った眼で見張と睨み合いながらドアを叩いた。

小屋の中の男
「入れ」

 ドアを開け入ると、イスに座った指揮官の男と横に立っている副官らしき男がいた。

座っている男
「お前か、近況を報告しろ」

 本田は机に向かい歩き、帽子を脱ぐと唾を吐いた。

「うるせえぞ、豚」

 本多は背中に付けていたククリナイフを抜くと同時に座っている男の喉を切り裂き、返す手で立っている男の首を飛ばした。

 座っていた男は机に前のめり、本田は立っている男が倒れるのを掴み、静かに床に寝かせてすぐにドアの横の壁に張り付き息を殺し外を伺った。
 
 この間ほんの十数秒。

 どうやら外の見張りは首の落ちる小さな音しか聞こえなかったので気付かなかったようだ。

本多
「おいっ!ちょっと手伝ってくれ」

 そう言うと本多はドアの少し開け、うんざりしたような顔をした見張りが入ろうとした瞬間、本多の手が伸び見張りの胸ぐらを掴んだ。

 見張りは一瞬で部屋に引きずり込まれ、血の海を見て顔がひきつった。

 しかし、恐怖を感じる間もなく直ぐに本多に引き倒されて後ろから喉笛をかき切られる。
 
 喉から吹き出した血は床一面に広がった。

 本多は騎兵隊時代に習得した運転技術の他に、ゴブリンとの戦いで銃弾を節約する為、強化された体を生かしたナイフ戦闘術を身に付けていたのだ。

 本多は流れるように一連の作業を終えるとドアとは反対側の窓から外に脱出し、崖と小屋の壁の合間を駆け足で抜け、車両倉庫の裏口に移動した。

 倉庫の裏手、鍵が掛けられていないドアから侵入し、事務所にいた男をナイフを握っていた手で殴り倒し、もう一方の手で小さいナイフでを引き抜きもう一人の男に投げた。

 移動兵器の少ない東名軍の車両倉庫には、この時間帯には二人しかいない事を知っていた本多は、辺りをそれほど警戒せずに壁に掛けてあるトラックの鍵を取り、息を整えながら大きな装甲を貼り付けられたトラックへと乗り込んだ。
 
 本田はトラックのエンジンを掛け、再度息を整えると時計を見た。
 
 (少し早かったか…)と思っていると、直ぐに砲撃音と破裂音が鳴り響く。
 
 兵達の悲鳴を合図に本多は倉庫の扉をトラックで打ち破り外へ出た。

 発電所は大きな山をえぐり取った用に三方を囲まれた地形の中に作られ、後方には崖があった。

 後方崖に以前は太陽光発電パネルが並べられていた傾斜の一画、コンクリートで作られた足場に迫撃砲が並べられていた。
 
 本多が行動を起こすと同時に交代用員を装った部下が裏から回り占領、そして固まって建てられていた兵舎に迫撃砲弾を降らせていたのだ。

 ちょうど皆が兵舎で休んでいた時間を狙った為、兵士達はパニックになり逃げ惑っている。

 その兵士達を尻目に本多を乗せた大型トラックが守衛を蹴散らしスピードを上げていった。

 輸送用の大型トラック前方には障害物をかき分けて進む為の補強がされており、本多はそのまま広場に設置された監視塔に突っ込んだ。

 支柱を地中に埋め込まず、地上に置かれただけの監視塔は大型トラックの突撃に耐えきれず、横転させられ簡単に破壊された。

 監視塔の上部に付いていた小屋を吹き飛ばしながらトラックは走り続け急旋回しバラック小屋の扉の前にトラック後方を着けた。

 バックで監禁小屋の見張りを引きずり込みながら壁を倒し、本多から指示されていた少年が家族達を次々にトラックに乗り込ませ運転席に荷台から合図が送った。

 初めは砲撃に気をとられていた発電所入り口の兵達は、トラックの一連の行動で反乱だと気付きトラックを銃で狙ったが、厚い装甲板に弾き返される。
 
 本多は東名軍の重火器とトーチカの射撃範囲の死角を知っていたので、そこを避けて走り、見事脱出に成功した。

 更に迫撃砲は次々に発電所周辺にあるトーチカ等の軍事施設を破壊していったが、落ち着きを取り戻し、装備を持った東名軍が崖上に回り込もうとしていた。

 その頃、死体が三体転がった司令官室からこの緊急事態に指令官が出てこない事を不振に思った東名軍兵士が指示を仰ぐ為に駆け入ったが直ぐに状況を判断した。

東名軍兵士
「くそっ」

 血に濡れた机の上の通信器が赤いランプを点滅させていた。

 兵士は手を伸ばし旧式の受話器を取った。

通信
「こちら南方監視基地、先ほどそちらに凄まじいスピードで見た事のない装甲兵器が向かいました。我々はほぼ壊滅です。

 繰り返します先ほど」

 兵士は受話器を叩き着けた。

東名軍兵士
「くそっくそっくそー」

 本多は離れた所に家族を下ろし再度トラックで部下を救う為に再度突撃していった。

 その時火龍が轟音を響かせ発電所に向かい突入してくるのが見えた。

 火龍による援護の話は無かった為に本多は少し驚いたが、少し頬を緩め負けじとアクセルを強く踏み込んだ。



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