咆哮するは鋼鉄の火龍
 発電所の皆が勝利の余韻に浸る事なく作業に追われていた頃、佐竹は異例の早さで箱根のゲートに辿り着いていた。

守衛
「お疲れ様です!」

佐竹
「軍事中央鉄道管理部、北方遠征部隊副指揮官、佐竹少佐だ。

 喜べ戦勝報告だ」

守衛
「おお!

 おい皆に知らせろ!どうぞ少佐、本部に至急通達しておきます」

佐竹
「あとから火龍の一部が来るから地下シェルターの工場まで誘導してやってくれ」

守衛
「了解しました」
 
佐竹は立花の指示に従い、口売屋に前線の情報を流し本部へと向かった。

 この口売屋というのは多くの情報を貴重な紙面ではなく路上でメガホン片手に話す職業で、上手い話し手には小銭が投げ込まれた。

 久々の大きなネタと勝利の報告に口売屋達が一斉に舌を振るった為、発電所奪還の報は一瞬にして街に広まった。

 例の無い速さでの奪還に成功した立花は英雄視され、レッドキャップ討伐が更に拍車をかけた。
 
 本部に着いた佐竹をいち早く出迎えたのは黒田であった。

 すぐに黒田の部屋に連れていかれ、事細かに報告を上げた。

黒田
「ちなみにここ来る前に誰かに喋った?」

佐竹
「いえ、黒田部長のみであります」
 
 佐竹は一瞬ヒヤッとした。

黒田
「えっ口売屋に話してくれなかったのか?」

 ニヤリと笑う黒田を見て試されたと分かった佐竹はやられたという顔をした。

佐竹
「ああ、黒田部長の指示だったんですか?

 妙だと思ったんですよ、立花少佐が自己顕示するなんて」

 開き直った佐竹に黒田が笑って答えた。

黒田
「試して悪かったな、それでいい、自分の上官を簡単に売るような奴の方が信用できんさ、なあ!森君」


「この前、黒田部長がコーヒーを重要書類にこぼして駄目にしたのを他の人に愚痴っちゃって」

佐竹
「本部は本部で大変そうですね」

黒田
「大変なのはこれからさ、お前達は重責のプレッシャーの中、本当よくやってくれたよ」

佐竹
「報告した通り、その勝利に貢献してくれた捕虜にとったレッドキャップなんですが火龍に士官したいと言ってまして」

黒田
「ああ、うちの行方不明リストのやつから適当なのを選んでなりきってもらう形で」

佐竹
「何故です?」

黒田
「そらー円滑に進める為にさ、正直に言ったら何言われるかわからんぞ」

佐竹
「確かにそうですね」

黒田
「火龍の乗組員と俺と森だけの秘密でな?」

佐竹
「しかし幹部の監視が入っているのでは?」

黒田
「織田って奴だ。俺も後で知った。

 今回の作戦は勝ったんだし、俺の影響力は強くなるよ?

 織田に家族の場所も知ってるって伝えといてよ」

佐竹
「脅しちゃうんですか」

黒田
「立花にやらせようか?」

佐竹
「いや、私が伝えます。あのー榊原部長にもお願いがありまして」

黒田
「ああ、悪かったね、早く家族に会いたいんだろう?
 
 前の旅館をとっとくからさ今晩家族で楽しんでよ」

佐竹
「そうもいきませんよ、みんなまだ発電所で作業しるでしょうし」

黒田
「どっちにしてもまた明日顔を出してくれんと困るからな、それまでに作戦指示書を書いとくからさ」

 森があからさまに嫌そうな顔をした。

佐竹
「じゃあお言葉に甘えて」

黒田
「ん、下がってよし」
 
佐竹が駆け足で去っていった。

黒田
「そんな顔するなよ、どうせこうなると思って先に作っておいたから、ちょっと付け加えるだけさ」
 森の顔が明るくなった。

「黒田部長!すいません、この前密告したみたいになって」

黒田
「じゃあ会議資料いってみようか」


「…ですよね」
 
 佐竹がエアロバイクで工場に入っていくと、民間の列車を整備していた榊原が奥から出てきた。

榊原
「おうっ立花ん所の、出発してから一週間そこらで逃げ帰ったんじゃねーだろーな」

佐竹
「いやいや、お陰さまで勝ちました、

 電気も近いうちに来るとおもいますよ」

榊原
「そうか!勝つの速えーな!

 で?悪い方の知らせは?」

佐竹
「いや、これ立花少佐から砲弾の補給のお願いです、後ー…」

榊原
「さっさと言えや」

佐竹
「実は野盗のレッドキャップを仕止めるのにレール搭載車両が、破損といいますか欠損といいますか」

榊原
「おお!殺ったのか?

 あの野郎何台も俺の車両を潰しやがって、でかしたぞ!

 じゃんじゃん持ってこいすぐに直してやる」

佐竹
「あっありがとうがざういます!」

 佐竹はとても仲間になったとは言えず、ひきつった笑顔になっていた。

榊原
「おいっ中央レールを空けろ!

 予備の鉄板も持ってこい!」

佐竹
「すいません、黒田さん所にも行かなくちゃならないんで」

榊原
「お、行ってこい」

佐竹
「失礼します、あとこれ充電お願いします」

榊原
「ああ自家発電の電気全部回してもらう、いいから早く行ってこい」

 ゲートを急ぎ出た佐竹は全てうまくいったので、飛び上がって地面に深く沈みガッツポーズした。

 街は戦勝ムードに活気づいていた。


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