咆哮するは鋼鉄の火龍
 朝早く、家族に別れを告げた佐竹が湯気の立ち込める人影の無い温泉街を抜け、統括本部に出頭した。

 玄関ロビーで少し待たされていると黒田の補佐を勤める森が迎えに来た。

 森とたわいもない話をしながら黒田の部屋につくと、煙草をふかしながら天井を眺める黒田が座っていた。


「部長は最近このポーズがお気に入りみたいで」
 
 目の下に隈を作った森がからかうように言った。

黒田
「考えごとしてるんだよ」

佐竹
「これですか、作戦指示書」
 
 机の上に封筒が置かれていた。

黒田
「あーそー、これなんだけど、これはあくまでも鉄道管理部の作戦指示書なんだ」

佐竹
「幹部決議は無視ですか?

 我々も防衛にあたるんですか?」

黒田
「いや、進軍準備なんだなこれが、幹部会は防衛大好きだろうけど、俺こう見えて野心家でさ」

佐竹
「幹部会はどうされるんです?」

黒田
「そりゃー手を打つさ、伊達にこの年で主要部の部長張ってないさ、信用しろよ」

佐竹
「しかし、皆がなんて言うか」

黒田
「やらなきゃみんあ終わりさ、お前達だってこちらが以前の東京の状況を隠してたのぐらい掴んでるだろ?」

佐竹
「ええまあ」

黒田
「前までは情報部が隠してきたけどもう限界なんだよ、ひよりみ決め込んで他のポリスを見捨てたんだようちは。
 
 報告だと東名の奴ら追い詰められて独裁してるんだろ?

 まずはこれを我々は解放軍として叩く、その後北方勢力と共闘し東京を制圧する。

 トレジャーハンター達の言ってるのは伝説じゃあ無い。

 復興に必要な莫大な物質、機材が残されているんだよ。

 あっこれトップシークレットね、とにかく増え続けるゴブリンを倒しそれらを手に入れなきゃ疲弊しあって人類は終わりって訳」

佐竹
「ちなみに現在の北の情報ってわかるんですか?」

黒田
「通信が途絶えたからこその今回作戦だ。

 変電所基地にもはぐれたゴブリンが出てるらしいし時は一刻を争う、味方が生きてる内にいち早く東名を落とし北の情報を掴まねばならん。

 とりあえずは東名だ。

 じゃなきゃ時代に取り残されるぞ、酷だけど、頼むわ」

佐竹
「すぐに戻って、進撃準備に取り掛かります。

 ですが本当に我々火龍の暴走って事にはならないですよね?」

黒田
「ああ、そこは任せろ。

 ちゃんと許可が出てから進んで貰うさ。

 準備だけしとけって事よ。

 どうせ車両の整備と砲弾の補充、それに会議での許可認定に時間がいるから適度に休むように、詳しくは資料に書いてある」

佐竹
「では」
 
 佐竹は事の重大さを直ぐに理解し走って工場に向かった。

榊原
「よお必死だな充電終わってるぜ」

佐竹
「詳しくは私の口からは言えませんが、列車修理急げます?」
 
 榊原は佐竹の口調と表情から「何かあるな」と気づいた。

榊原
「任せろ、行け」
 
 佐竹は礼も言わずにバイクに乗りはしりだして行った。

榊原
「こりゃいよいよなんかあるな、おい、車両が何処まで来てるか確認してこい!突貫で行くぞ」

 そう言うと榊原は事務所に向かい受話器を取った。

榊原
「おうっ俺だ、今度の奴等は砲弾を敵にしっかり届けるようだから在庫の弾薬全部持ってこい、総動員で弾薬を加工しろ。

 …なにー休暇?…出来ない?今行く」

 工員達が恐る恐る榊原の方を伺っていた。

榊原
「ちょっと砲弾課に行ってくる」

 榊原は工員達にそう言って大型レンチを掴み肩を怒らせながら、早足で去っていった。

 暫くして戻って来た榊原の作業服には血の染みがつき、レンチからは血が滴り落ちていた。

榊原
「砲弾課は3日寝ずに働くそうだ。

 いいかよく聞け!

 小僧どもは戦場で命掛けの出入りをしてやがる!

 俺らはここが戦場だ、レンチの錆びになりたくなけりゃあ全員過労死しろ!」

 工員達は涙を流した。

 もちろん榊原の男気にではなく恐怖のせいであった。
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