咆哮するは鋼鉄の火龍

赤に染まるは大砲の渓谷

 発電所から北へは箱根の者には未踏の大地であった。

 火龍は線路が敷かれている敵の防衛要所を避けては通れず、本多と捕虜の情報から作戦を練っていた。

 しかし立花はいつもと違い一つ策を打ったものの決定打に欠けていたので考えあぐねていた。

立花
「キャノンキャニオンとはよく言ったもんだ」

佐竹
「こいつは本当に厄介ですね」

 地形や建造物が旧世界と異なり過去の地図はこの時代では意味をなさず、発電所の指令室で発見した東名周辺の地図を二人は眺めていた。

 そこには巨大な渓谷が数キロにも渡り東西に走り、その後途中から北へと延びている。

 本多と捕虜達の話では箱根の軍を止める為に砲台が多数設置してあり、崖には洞窟を掘り、所々に銃座が置かれた空間が設置されているとの話で、通常に進行すれば蜂の巣にされるのは一目瞭然であった。

立花
「難所を避けては通れないか…装甲列車の弱みだな」

佐竹
「話では前方に重火気が集中してますね」

立花
「前方で足止めして後方から歩兵が追い討ちをかけてくるでしょうね」

佐竹
「流石に三方から食らい続けるのは不味いですね、確実に砲弾に捉えられますね」

立花
「だが、抜け道がある…はず、なんでその一つを確かめにちょっと行ってきます」

佐竹
「私が行きます」

立花
「いや今回は自分の目で確かめたくって」

佐竹
「じゃあ護衛をつけますよ」

立花
「そうですね、あーあ歩兵がもっといてくれればばすんなり攻略出来るんだけどなー」

佐竹
「本部に打診してみますよ」

立花
「まあまずは偵察に行ってくる」
 
 立花は鞄に物を詰め込みエアロバイクに向かった。
 
 バイクの前にはリトルが佐竹に呼ばれて待っていた。

リトル
「私が運転しますか?」

立花
「いや、エアロバイクに関しては私の方が慣れているから警戒を頼む」

 二人はバイクに乗り、佐竹に後の事を指示した。

片倉
「おっデートですか?」

立花
「片倉でもいいな、計測出来るし、キャノンキャニオンに一緒に行くか?」

片倉
「キャノンキャニオン?

 ああ連中が言ってた防衛要所ですね?
 
 バイクで?しかも単機で?

 痔にちょっと、お腹も痛いし」

立花
「そうか護衛にもならなさそうだしな」
 
 片倉は逃げるように去って行った。
 
 そこに宇佐美がやって来た。

宇佐美
「少佐、でっデートですか?」

立花
「いや偵察だ。
 
 リトルは軽くて射撃も上手いから護衛役でな」

宇佐美
「いや、別に気にしてないですけどね」

立花
「うん、じゃあ、あの張りぼて列車のクオリティを上げといてくれるか?」

宇佐美
「…分かりました」
 
 宇佐美はリトルを見て右手のマイナスドライバーを回した。

 「おのれー許さん許さんぞー」
 
 いつの間にか赤松が宇佐美の横に立ち唸っている。
 
 宇佐美は自分が無意識に喋ったのかと驚いた。

立花
「何だ?」

赤松
「リトルさんなんで大将と、パワハラ!職権乱用だ」

立花
「うるさい!任務だ」

リトル
「赤松うるさい」

立花
「ああこれ宇佐美、これありがとう」
 
 立花は音楽プレイヤーを宇佐美に渡そうとした。

宇佐美
「差し上げます」
 
 宇佐美はヘラっと笑って去って行き、立ち代わりにノッポがやって来た。

ノッポ
「リトル隊長ついに女性としての…」

立花
「もういい、掴まれ行くぞ」
 
 立花とリトルを乗せたバイクは急発進して飛んでいった。

ノッポ
「せめてバイクの後ろに空き缶たくさん着けてあげたかったのに」

赤松
「おのれー」

佐竹
「俺が選んだだけだし重要任務だ。

 さっさと仕事に戻れ」

赤松
「あっ佐竹さん今日も素晴らしいお召し物で、僕もリトルさんと重要任務に着きたいんですが?」

佐竹
「これは軍服だ!うるさい認めん!」

赤松
「お召し物って服の事だったのか」

ノッポ
「何の事だと思ってたんだよ?」
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