咆哮するは鋼鉄の火龍
 今回の作戦に参加する為に集められた乗組員達は、全て黒田が選考した者達であった。

 立花が階段を降りていくとそこには嬉しい顔があった。

 体格の良い男が笑顔で敬礼し立花を出迎える。

 立花の無二の戦友、佐竹小佐であった。
 
 立花と佐竹は機動兵器部時代、武装バギーに一緒乗って戦った仲であった。

 この頃の立花は軍に入りたての新兵であり、その教育係として部隊長の佐竹があてがわれたが、早くから立花の作戦の上手さに気付いていた佐竹は部下達を説得し、早々に指揮権を非公認ではあったものの立花に委任していたのだ。
 
 敵の動向を読み、臨機応変な対応で的確に指揮をする立花と、元来、命令を忠実に遂行し、行動力を得意とする佐竹がそれに即座に合わせ実行する事によって生まれる相乗効果で、二人は次々に戦果を挙げていったのだ。

 佐竹は素直な性格であり、全ての戦果を立花の功績であると上手く上層部に報告し、立花は佐竹を兄の様に慕っていた面があった。

立花
「お久しぶりです佐竹さん」

 立花ははち切れんばかりの笑顔で佐竹に駆け寄った。

佐竹
「お久しぶりですね、立花少佐」

立花
「止めて下さいよ、少佐なんて、

 お互い出世して並びましたね佐竹少佐」

佐竹
「ああ、俺がいい上司のお陰だぞ、手柄を独り占めしなかったんだから、しかし覚えてるか?

 最初は四駆で、次は鹵獲した敵の戦車、極めつけはこれだろ?

 どんどん車輪が増えてくな、感謝しろよ?

 こんないいもんに乗せて貰えて」

立花
「いい上司のお陰です」

佐竹
「おお素直だな」

立花
「ええ黒田部長にね」

佐竹
「おっおお黒田部長にな、俺の事かと思った恥ずかしい」

立花
「冗談ですよ、えははは」
 
 そこへ黒田と榊原が階段を遅れて降りてきた。

立花・佐竹
「整列、静聴!」

 火龍を珍しそうに見ていた乗組員達は一斉に整列した。

 一癖も二癖もありそうな者達も混ざっていたが、全員姿勢を正しくし、熱い目線を送っていた。

 黒田と榊原は兵士達、特に最前線で戦う者にとっては他の軍幹部とは一線を画し、尊敬に値する男達であった。

黒田
「休め、あーおほんっ、諸君。

 今回正式に北方への遠征の日取りが決まった。

 出発は本日より二十五日後の明朝である」

 気の抜けた重大発表ながら辺りからざわめきが起こった。

黒田
「ここに集まって貰ったのは私が選んだ精鋭達である。

 その時点で少しは天狗になってもらって構わないが、それだけの責務があることを自覚して欲しい。

 まー用は前回まで散々にやられたから、やり返そうって話なんだけど当分の目標は敵の最前線にいる盗賊の撃破と、奪われた発電施設の奪還である。

 先に行かれた先輩方はコテンパンにやられたが、多少は敵戦力を削ってくれたはずだ。

 まあ、その分こちらも派手にやられたがね、つまりはだ。我々がその手柄をごっそり奪ってしまおうという作戦である。

 あっ榊原さん、すいません先に話しちゃって、何かあります?」

榊原
「おう!

 こいつはな、民間の輸送用ミミズ級列車じゃねえ。

 それに牙が生えた程度の蛇級でもねー。

 物質と技術の両翼を兼ね備え、

 大砲という爪と、

 装甲という鱗を持ち、

 俺達兵器管理部の誇りと心血を注いだ龍級装甲列車だ!

 他のポリスにはこんないいもんはねー。

 負ける訳がねーんだ。

 技術ダケだったらの話しだがな!

 てめーら!
 
 もしもこれで負けて死んだら、レンチで頭かち割ってぶっ殺してやる!

 ふんどし締めてかかれや!」

乗組員
「はっ」

黒田
「あーじゃあ立花、前に」

立花
「はっ」

黒田
「えー立花少佐 
 人類再編統括本部
 軍事幹部最高会議により、
 貴殿を中央鉄道管理部、
 軍事鉄道兵器課、
 課長及び北方侵攻作戦の前線戦闘指揮管に移動、及び任命する。

 本作戦中はに於いてのみ限定的に中佐の権限を与え、さらに現地での物質調達の権限を許諾せんものとする。

 異例の抜擢ではあるが、やってくれるか?」

立花
「命令されては?

 私は只の一軍人です」

黒田
「水をさすなよ、せっかく噛まずに上手く言えたのに。

 失敗したら私一人では泥を被りきれん程の重責だ。

 慎重に考えろ」

 立花は息を深く吸い込んだ。

立花
「始めに打診された頃より、
 
 既に覚悟は出来ております」

 黒田は普段見せない程の神妙な面持ちで声をあらげ叫んだ。

黒田
「よしっ!

 立花に不満がある者、

 作戦や私に不満がある者、

 この装甲兵器に不満がある者は、
(黒田が言った瞬間
 榊原が不気味な笑顔を見せ、
        一同は目を伏せる)

 今すぐこの場で申し出よ!

 背水の陣での進行である!

 各々が考えよ。

 人類再興の先駆けとなれ!」

榊原
「立花!お前も一発ぶちかませ!」

立花
「私が若いという事に不満がある者が多い事は重々承知しているが、

 その不満は勝利に次ぐ勝利で一掃する事を約束する!

 私より効率的に敵を殺せるという者がいれば今この場で前に出よ!

 以後命令違反は厳罰に処す!

 哀れ何も知らず、龍の巣である箱根に足を踏み入れた愚かな北方人は逃げ出すであろう。

 奴らはすぐに耳にするのだ!

 怒り狂った火龍の咆哮を!」

 立花が火龍を指差すと同時にシェルター中に狂喜の歓声が上がり異様な熱が辺りを包んだ。

 ここに新時代を築くかもしれない新たな竜騎兵達が誕生したのだった。
 

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