咆哮するは鋼鉄の火龍
 渓谷の前の荒れた平地に毛布を被り立花とリトルが寝そべっていた。

 立花は双眼鏡で渓谷内部を探っている。

 リトルは銃を抱え辺りを警戒していた。

立花
「渓谷に人影は無し、砲台が多少は見えるな、崖の上に監視小屋有りっと」

リトル
「もっと奥まで行かれますか?」

立花
「いや、バイクの電力が心配だから引き返そう」

リトル
「そろそろ日が沈みます」
 
 夕日が大地と渓谷を美しく赤く染めた。
 
 二人は暫く夕日に照らされた景色を眺めた。

立花
「いいね、よし帰るぞ」

 立花は腕時計を確認し、リトルと共に発電所へと引き返した。
 
 帰って来るなり佐竹が手を降って出迎えた。

佐竹
「ご無事で!どうでしたか」

立花
「バッチリ、何とかなるでしょう」

佐竹
「いやリトルの事です」

立花
「みんなうるさいぞ」

佐竹
「冗談ですよ」

 偵察の翌日、箱根から機関車に引かれた輸送列車と火龍の六両目が修理されて戻ってきた。

 しかも立花が要請した量よりも多くの弾薬を乗せていた。

 立花は榊原に感謝しつつ、特殊砲弾を探した。

 通常砲弾と違い三発だけ特注していた物だった。

立花
「これは合図するまで使うなよ」

十河
「わっかりやした。マークしときます」

立花
「これは?なんだろう」
 
 少し大きめの4×6の穴が空いたロケットランチャーの様な兵器が乗せてあった。

宇佐美
「箱根防衛の為に開発してた対人兵器ですね。

 上空に打ち上げた砲弾が着弾と同時に拡散し着弾点から半径五メートルの目標を仕留めます。

 通称はジャズハンマー、射程はおよそ50メートルです。全部撃ったら良い音奏でますよ」

立花
「こいつはいいな、迎撃にかなり使えそうだ、早速火砲車に取り付けてくれるか?」

宇佐美
「了解しました」

佐竹
「凄いお客さんが乗ってますよ」

 佐竹が指差した方向から朱揃えの装備の一団が降りてきた。

立花
「なんで、斎藤大佐の懐刀がここに?」

 降りてきたのは斎藤が抱える特殊作戦部隊の歩兵で通称を朱達磨と呼ばれる集団であった。

 斎藤は芦屋湖という小ポリスの統治をしており、小ポリスながら貴重な水源を持っていたので最新装備を優遇され、精鋭が集められた。

 その強さから特殊な作戦を任されることが多く、箱根ポリスが今の大きさまでになった大きな原動力でもあった。

 旧世界の遺産である全身防弾アーマーを着用しており、朱色に塗装された装備は戦場では格好の標的であったが同時に恐怖の対象にもなっていた。

 その理由は実際斎藤の気質もせいもあって部隊の者は皆血の気が多く、前回の奪回作戦では撤退命令が出るまで暴れ回り、捕らえた敵の四肢を切り落とし晒したことから朱達磨と呼ばれるまでに至った。

朱達磨の男
「芦屋管理部、特殊作戦課長の島津であります。

 軍事階級は中尉であります。

 今回芦屋管理部長である斎藤大佐の命令で我々選抜十名、これより立花少佐の指揮下に入ります」

立花
「あの斎藤大佐が?
 私の下に付けと?」

島津
「ええ、条件付きですが」

立花
「条件とは?」

島津
「『こいつ等を死線に送り勝利せよ』とだけ伝言を預かりました」

立花
「活躍させて、勝てっか、中尉はいいんですか?」

島津
「我々の部隊に死を恐れる弱卒は一兵もおりません、何なりとご命令下さい」

立花
「では侵攻で決定ですね?」

島津
「はっ、幹部会議で東名への侵攻が決定しました。
 
 以後東名制圧まで立花少佐に軍事行動権を与えるとの事です。
 
 既に箱根には多くの兵が集結し、前線の進行状況に合わせ発電所に送られる予定です」

立花
「勝手に戦争してもいいって事か、どんどん重圧がかかるな、黒田部長は何か言ってました?」

島津
「はっ、正確に伝えますと、『勝ってくれないとまずい、死ぬな』と仰られていました。
 
 因みに当分はこの戦力だけで進軍せよ、との事です」

立花
「んん~って感じだな。

 欲しかった物以上を揃える所は流石といった所だが。それに
 
 よしっ、じゃあまあ。
 
 模擬戦といこうか、中尉四人選んでくれ」

島津
「我々の力試しですか?」

立花
「いや君等の強さは知ってるよ。

 歩兵の指揮管を選ぶんだ。

 こっちも精鋭だぞ?

 勝利した者に従う事を誓うか?」

島津
「こちらの台詞です」
 
 島津は四人選び模擬戦場である崩壊した兵舎郡にいち早く向かった。

立花
「佐竹、本多と三人組を呼んでくれ」

佐竹
「面白そうですね、拡声器で呼び掛けましょう」
 
 佐竹は火龍に走り、皆に模擬戦の連絡をした。
 
 乗組員はすぐに皆集まりお祭り騒ぎになった。




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