咆哮するは鋼鉄の火龍
 キャノンキャニオン攻略の為、火龍が箱根を出てから初めての車両順列の編成がポイントで変更された。

 前方から警戒車、火砲車、指揮車、主砲車、電源車、レール搭載車、機関車の順に連結されていき、火力を前面に集中させた形になった。

 新兵器のジャズハンマーは火砲車に二台設置され、宇佐美の細工で車両内部で上下左右に調節と発射が可能となったが、上下と左右を調節する別々のハンドルのせいで体をぶつける者が続出し不評だった。

 今回の作戦の主役の一つである張りぼて列車二両は最前方に配置され、完成してから更に装甲を厚くされ、さらに前から二両目の偽火龍には、内部で火が炊かれ蒸気のように煙を吐き出し遠目から見れば機関車そっくりに作られた。

 火龍は荒れ地をどんどん走り進み、レール搭載車の中ではもう一つの主役である本多率いる歩兵部隊が武器の最終整備を行っていた。

本多
「二部隊に分かれる、一方は島津が指揮する朱達磨十名、残りの三人組はは俺に続け」

歩兵部隊
「了解」

本多
「そろそろだな」

通信(立花)
「間もなく作戦区域に入る。全車両の通信を開く、機関車速度スロー」

本多
「おっしゃ久々にやったるぞー」

 
 指揮車では片倉が上部ハッチを開け天候を確認し、時計を確認していた。

片倉
「速度20キロメートル維持で、五分後突入となります」

立花
「機関車両五分後速度時速10キロに落とせ」

通信(織田)
「了解」


 東名軍はすでに崖上の監視小屋から火龍を捕らえていた。

 全員が配置に付き迎撃体制がとられた。

東名指揮官
「発電所を襲った奴だ。

 渓谷前方砲台から次々に狙い打て、ここは落とせんぞ」

東名兵士
「敵の二両目より煙を確認」

東名指揮官
「前方車両から潰していけ、機関車両が潰れる頃には敵はこっちの網の中だ鉄屑にしてくれるわ」

東名兵士A
「速度が遅いな、日が暮れちまうぜ」

東名兵士B
「よしっ来たぞ狙え」

東名兵士C
「夕日が眩しくて影しか見えん」
 
 火龍は夕日を背負い、鉄パイプを砲身に見立てた張りぼて列車は堂々とした速度で侵入していった。

立花
「敵は夕日の逆光でこちらを完璧には捉えられん、砲撃してくる敵に各自反撃せよ、一騎たりとも見逃すな!」

 速度の遅い火龍に対し敵の砲弾が容赦なく発射され、前方車両は被弾を繰り返し破損したが夕日のせいで張りぼてと気付かれる事はなかった。

 火龍は敵の砲火に対し位置を把握し直ぐに反撃を行い、主砲の轟音が谷に響き渡り敵は震え上がった。

 暫く激しい砲撃戦が続いた。

 火龍からは目標を目視出来たので、地表に置かれた敵の砲台は爆発するように破壊され続け、崖のトーチカはえぐられた。

 逆に偽火龍は砲撃を浴びるだけ浴び大破した。

立花
「偽機関車が大破、機関車停止!」

 いよいよ東名側の軍は火龍の本車両を狙い始めようとしていた。

 両軍の指示が飛び交い必死の砲撃戦は渓谷を硝煙と土煙で包み、夕日が煙に差し、砲火が光り、渓谷を赤へと染め上げた。

 火龍前方の線路に敵の砲弾が直撃し惰性で進んでいた火龍はブレーキを掛け止まらざる終えなかった。

 進行不能となり窮地に立った火龍。

 しかしその時、援護崖からの機銃と砲撃が仲間であるはずの地表の東名軍を攻撃し始めた。
 
立花
「間に合ったか!」

 火龍が谷に侵入した少し後、本多と島津が指揮する左右に別れた二部隊が破壊された崖の銃座から侵入し、連絡通路から次々に崖の内部を制圧していたのだった。

 通路内の東名兵士は谷に響き渡る轟音と硝煙、そして火龍に気をとられ、簡単に侵入を許し、しかも火龍歩兵隊はまともな反撃の隙をも与えられなかった。

 箱根側に歩兵の大部隊が確認されなかったので火龍のみに注視し、油断し完全に不意を打たれた東名兵士は簡単に火龍の精鋭達に圧倒されていった。

 狭い通路をシールドで進む朱達磨は敵の銃弾をものともせず着実に銃座を確保しつづけた。

 本多は黒に塗り替え、サイズを直した改良防弾アーマーを身に付け、持ち前のスピードを生かし、凸凹コンビの援護を受けて突撃を繰り返した。

本多
「発煙筒急げ」
 
彼らは制圧したトーチカで発煙筒を焚き、火龍の砲撃を避けた。


佐竹
「両壁のトーチカから発煙信号多数」

立花
「よしっやってくれたな!全火力を前方へ。

 全砲門一斉射撃!」

 両方の崖と火龍の砲撃で三方からの砲弾を受けた谷間の砲台は壊滅的な打撃を受けた。

 そこに後方から東名の援軍が向かってきていた。

立花
「退却信号を打て、機関後退せよ」
 
 佐竹が指揮車の上部ハッチから上空に向け照明弾を打ち上げ、歩兵部隊が崖を降り回収としたと同時に火龍はゆっくり後退していった。

敵指令官
「ここまでやられて逃がしはせんぞ、全員突撃して車両を乗っとれ」

 岩影に隠れていた歩兵が奇声を上げ後退していく火龍に向かい突撃を開始した。

立花
「左舷ジャズハンマー用意」
 
 火砲車に移った片倉と鍋島の指示でハンドルが忙しく回された。

通信(コック)
「こちら警戒車!敵来ます」

立花
「火砲車っまだか!」
片倉
「いけます」
立花
「打て!」
 
 砲包から次々に発射される砲弾は弧を描き、地表で弾け、群がる射程内の東名兵は一瞬で壊滅した。

コック
「うおースゲーな」

立花
「方向転進、各乗組員一斉に射撃、手の空いてるものは武器を手にしろ」

 機銃が再度乱射され、上部ハッチから甲板出た歩兵部隊が逃げる東名兵を的確に仕留めていった。

 線路が断たれた場所まで火龍が来る頃には敵はちりじりに逃げていった。

立花
「全員外に出ろレールを張り替える、急げ」

佐竹
「勝ちましたね」

立花
「まだ油断できないですけど」
 
 そう言いながらも立花は勝利を確信し、前進命令を出した。
 
 どうやら敵の防衛施設は前半部分に集中されていたので、顔色が悪くなった敵は南北にのびる後半部分の渓谷を捨てた様だった。
 
 日が完全に沈み、敵の一団の影が渓谷を抜け撤退していったのを先頭車両が確認した。

立花
「敵の逃亡を確認した。
 
 歩兵隊、敵の残存兵を探せ、宇佐美は被害状況報告。
 
 各車両は銃弾残数を報告、充填急げ。
 
 みんな良くやった。我々の完全勝利だ!」
 
 渓谷は火龍の乗組員の大きな歓声で包まれ、渓谷は戦火の残り火で照らされたていた。

 火龍とこのメンバー意外ではこの要所を制圧するのには時間と被害が甚大であったであろうと後の多くの戦術家が語っている。

 それほど迄にキャノンキャニオンは厚い防衛ラインであったのだ。

 渓谷は多くの兵士の血と、戦火の残り火と、沈む太陽で深紅に染まっていた。


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