咆哮するは鋼鉄の火龍

巨人を葬るは歴戦の巨砲

 幸いにも敵の砲撃は火龍の装甲にひびこそ入れたが貫く事はなく、へこみもそこら中にあったが大方は無事であった。

 当然中にいた者も被害をまのがれ、軽症こそあれ重症を追う者はいなかった。

 歩兵隊ではファットが右耳を銃撃戦で飛ばされたがドクターは少し顔がスリムになったなとからかっただけで、渓谷の防衛力の割には奇跡的に戦死者が出なかった。

 火龍の砲撃を免れた東名の重機関銃のうち火龍に積んでいるものより砲口の大きい物は積み替えられた。

 薬薬も補充され、発電所から移って来た兵によって新しく防衛網が築かれていき、キャノンキャニオンは箱根の実行支配拠点となった。

 立花は「飛脚」と名付けられた伝書鳩に、簡単な報告書を取り付けて飛ばした。

佐竹
「ヒヤヒヤもんでしたが、奇跡的に全員生き残りましたね」

立花
「ああ、偽列車を三両にしておけばよっかたですよ」

佐竹
「そんなに壊したら、榊原さんになんて言えば」

立花
「壊したのは今度は敵ですし、次はこの編成でお願いします」

佐竹
「やれやれ、次は巨人狩りですね」
 
 キャノンキャニオンの北出口から遠目でも見える四角い山のような建造物が見える。

 五つ目の巨人と呼ばれる移動式の巨大要塞が北に鎮座し、渓谷に向け大型の砲身五門が睨みをきかせていた。

 巨大なキャタピラが何本も連動し、上部の台形型要塞部を動かしていた。

 巨体のあまり渓谷を抜けられず、渓谷に送られる物質の護衛と後方撹乱の抑止力となっていた。

立花
「次のも結構博打になりますよ」

佐竹
「ここよりもですか?」

立花
「主役は十河です、それに今回の敵の砲撃は直撃したら不味いでかさですしね」

佐竹
「十河は天才だから意外と信用してますがね、もしここまで要塞が来たらどうします?」

立花
「それも賭けですね、私も考えました。
 
 あれで渓谷の出口に蓋をされたら我々は遠回りして侵攻したとしても長い間鉄道による補給を受けられませんし。
 
 少なくとも鉄道兵器である火龍の進路を阻まれるのでかなりの長期戦を覚悟しないと。
 
 ただここからでも見える程の巨体が移動するには時間がいるし、その間に簡単に逃げられますから戦力撃退の根本的な解決にはならないでしょう。

  もう一つは今の位置と我々の進行を阻むと考えるならここに布陣しますね」

  立花が地図を指した場所は大きく半円を描いた線路が敷かれた内側であった。

佐竹
「もうこちらが火龍一本で行くのはバレてますかね」

立花
「バレてなくても火龍の脅威は十分に分かっているでしょうね、だから火龍に対して迎撃体制中心でくるはず、敵要塞は半円状の内側に陣取って出来る限りの移動のロスを減らし、我々を円の外に弾き出そうって作戦でしょう。
 
 少なくとも私ならそうするか、ここまで持ってきて渓谷に蓋をしますね。
 
 でもこちらが遠回りして東名を攻めた場合、要塞は無力化されますし、向こうとしては出来る限り要塞を使って我々を潰したいと思うはずです。
 
 まあとにかくあれがここまで来たら、渓谷に逃げて、来なければ仕掛けるって方向で、来ない確率が高いでしょう」

佐竹
「とりあえず偵察に誰か出します、少佐行かれます?」

立花
「いや今回はいい、それよりトラックに乗せてエアロバイクを発電所から誰か持って来て欲しいんですが」

佐竹
「じゃあ編成の指示したら行ってきます」

立花
「いつもありがとうございます、誰か護衛を連れてって下さいね」

佐竹
「焼きもちやくから、リトルはやめときますね」

立花
「うるさい」

 佐竹の指示で仮設線路が作られ、車両の編成作業が行われた。

 立花の指示で渓谷入り口の崖上に監視小屋が作られ、要塞が来た時に被害を避けられるように、残った機銃と砲台を渓谷の中盤辺りに配置させた。

 偵察に出ていたコックとノッポの内ノッポが渓谷に戻ってきた。

立花
「何かあったのか?」

ノッポ
「ええ見た事ないものが要塞に運ばれてきました」

立花
「見たこと無い物?」

ノッポ
「ええ、乗り物みたいなんですけど、バイクよりおっきくて、タイヤが無いんです」

立花
「んんー良く分からないな、まあ一応乗り物だとして、警戒した方がいいな、
 
 丁度いい、ノッポはスナイプ得意だろ九七式自動砲と徹甲弾があったから警戒車の上部に取り付けとこうか」

ノッポ
「あれなら何でも撃ち抜けますよ。

 じゃあちょっと行ってきます」

 突如現れた未知の敵に不安を覚えた立花はもうひとつ策を講じることにした。

立花
「宇佐美ちょっといいか」

 車両の切り替えポイントを作る作業を行っていた宇佐美は汗を拭きながら立花に向き直った。

宇佐美
「どーされました?」

立花
「人が持てるような弾道砲を作って欲しいんだ。強力な奴」

宇佐美
「バーズカみたいなやつですね」

「それなら兄の部隊が持ってましたよ」

 宇佐美の後ろで同じく作業をしているリトルが言った。

立花「じゃあそれでいいか」
 
 宇佐美はリトルを睨んだがリトルは作業に戻っていた。

宇佐美
「他に何か出来そうな事あります?」

立花
「そうだ、連結器に細工して欲しいんだけど」

宇佐美
「それも面白そうですね」
 
立花と嬉しそうな宇佐美は仕掛けについて話し合っていた。

立花
「じゃあそういうことで」
 
 宇佐美は右腕を鳴らしながら火龍に跳び跳ねていった。



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