咆哮するは鋼鉄の火龍
 箱根軍の総力を上げ急ピッチで要塞の改修作業が行われていた。

 切断された断面に元々あった剥き出しの鉄筋に、更に鉄のパイプ等で骨組みがつけられ、その上に鋼板を溶接やネジ、釘等様々な物で壁が作られた。

 宇佐美は要塞上部の仕掛け作りに没頭し、榊原は全ての工事を監督し仕切っていた。

 本多は斉藤から防弾シールドを貰ったが、ヘルメットと自分のアーマーの強化に使用して斎藤に怒られ、更に勝手に動いたのでドクターにも大目玉を食らっていた。

 竹中の命令で要塞の完成を待たずして火龍の出発が決定した。

立花
「出撃ですか?」

竹中
「少しずつでも戦力を削っておきたい、危なくなったら直ぐに戻れ、攻めて引くを繰り返して貰いたい」

立花
「装甲列車でゲリラ戦ですか」

竹中
「過酷だろうが頼めるか?」

立花
「断る勇気はありませんし、有効な手段だと思います。ただ一つお願いが」

竹中
「言ってくれ」

立花
「要塞の巨砲が一門欲しいんですが」

竹中
「許可する。無理はするなよ」
 
 既に次の作戦に不必要とされた要塞砲台は取り外されおり、それを別の輸送列車に載せて簡易装甲列車に仕立て火龍の先頭へと持ってこられた。
 
 ここからの火龍は今までの中でも一番過酷な戦いに望む事となる。

 東名は全兵力を防衛に回し、移動要塞から東名迄の至るところに防衛線を張って箱根軍を待ち構えていた。

 火龍の活躍が東名に知れ渡っていた為、レールに障害物が置かれレール自体も数ヶ所に渡って外されていた。

 その為東名が築いたバリケードを要塞から積み替えた巨砲で破り、レールを敷き直すという作業まで行わなければならなず、少し前進しては敵の防衛線と砲撃戦が始まり、迫り来る敵を迎撃しながら撤退の繰り返しであった。

 火龍が再度出撃する頃には東名側は破られた部隊の再編成を行い再度防衛線を建て直しの繰り返しであった。

 ある時には敵の戦闘車両の奇襲を切り抜けたと思ったら後方に敵が回りこんでいたりと、戦況は日々苛烈を極めていき、火龍は次第にボロボロになっていった。

 弾薬が尽きかけたり、破損状況が酷くなると要塞に戻り弾薬の補給と応急処置を受け何度も何度も出撃した。

 負傷した者は一度火龍を降り、回復する前に次の出撃に合わせ再度乗り込んで行った。

 火龍隊が敵の戦車隊を破壊した頃には東名の現存防衛戦力では火龍を破壊するには決定打を失ったと判断し、防衛ラインを放棄し引き上げを開始、遂に火龍は東名を見定められる所までたどり着いた。
 
 それは出撃から20日目の夜だった。

 厳しい激戦地を潜り抜けた立花一行は火龍の上部ハッチから空中の都市「東名」を眺めていた。

立花
「話に聞いた通りだな」

佐竹
「凄い眺めですね」

 旧世界では車両が通っていたと言われる大きな柱に支えられた延々に続くコンクリートの橋上に、人の営みの光が見える。

立花
「片倉、高さを計ってくれ」

佐竹
「昔の人間は巨人だったんですかね」

立花
「要塞にといい、この空中都市といい、そう思えるのも当然ですね」

佐竹
「きっと食べ物が少ないから、小さくしたんですよ最適化で」

立花
「あながちそうかも」
 
 その時潜伏していた東名軍から夜襲がかけられた。

立花
「逃げるぞ!片倉計測は?」

片倉
「できました」

立花
「どう出た?」
 
 敵の機銃の音と被弾音が響いてたが、20日間戦いっぱなしで皆、耐性が付き被弾音を気にもとめなかった。

片倉
「少し要塞の方が低いぐらいですね」

立花
「いい土産が出来た。機関車撤退だ」

 敵の追撃を軽く振り切り火龍は要塞へと急いだ。

 意気揚々と立花達が戻ると移動要塞改が不細工ながらも完成していた。

宇佐美
「立花少佐竹、ご無事でしたか、出来ましたよ」
 
 移動要塞改修作業の為に残された宇佐美が出迎えた。

立花
「ああ、それなんだけど実際計ってきたらこっちの方が背が低いんだよ」

宇佐美
「行ったんですか?まあ仕掛け板を長くしたから大丈夫ですー、親方がこれを『鷹揚』ってつけました」

立花
「鷹揚?巨大って意味の?

 火龍といい二文字が好きなんだな」

宇佐美
「ノッポが良いっていったんですけど、名機は漢字で二文字だって昔から決まってるって」

立花
「ハハハ、ノッポはやめとこう、これボコボコにされるし」

宇佐美
「折角作ったのに」

竹中
「戻ったか!」

立花
「東名まで肉薄して来ました」

竹中
「お前達が派手に暴れてくれたお陰でこっちには気づかれんかったはずだ。

 本当に良くやった」

立花
「しかし夜中な上に奇襲かけられたんで詳細な戦力は分かりませんのでもう一度行きます」

斎藤
「十分だ、これ以上黒田の部下に手柄を立てられてたまるか」

竹中
「それもそうだな立花2日休め、これは命令だ。
 
 後から追いかけて来いどうせ鷹揚は足が遅い」

立花
「助かります。直ぐに追い付きます」

斎藤
「寝とれ寝とれ、そんなんだから小さいんじゃ」

立花
「親方に、あっ榊原部長にも言われました」

竹中
「よし斎藤行くぞ」
 
 竹中は特殊な戦車に乗り軍刀で進軍の合図を出した。

 集結していた箱根軍の大部隊が土煙を上げ鷹揚を囲み北を目指し歩み始めた。

 箱根の軍が東名に向かい出撃し、立花達はそれを見届ける間もなく崩れるように直ぐに眠りについた。


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