咆哮するは鋼鉄の火龍
 赤松の主砲発車警戒装置で車両の中は朝日より赤く照らされた。

佐竹
「流石は鶏だ、早起きだな」

立花
「五時だ、時間ピッタリだな、よしっ行くぞ」

佐竹
「行くぞ全員起きろ」

榊原
「ったく忙しない野郎どもだな。

 まともな修理ができなかったじゃねーか」

宇佐美
「でも親方が寝かしといてやれって」

榊原
「うるせー!」

 榊原の一団に見送られ、日の出と共に継ぎ接ぎだらけの火龍は出撃した。

 甲板では十河が太極拳を練習していた。

 どうやら火龍に装飾を施した事で榊原から拳骨を食らったので、次回は避ける練習をしているそうだ。

 火龍が出発したその日の夕暮れには先に出発していた一団に追い付いた。

 戦闘を繰り返し抜けた戦場には死体と破壊された防衛線が火龍が行った戦いの壮絶さを物語り、それらを通過する度に火龍に称賛が送られた。

 斎藤ですら心の底から火龍の力に恐怖したという。

斎藤
「ここまでの戦場を見てきたが、たった一部隊で一個師団並みの戦火じゃないか」

竹中
「しかも負傷者は多数だが死傷者がゼロだ。

 貴様との力の差は歴然だな?」

斎藤
「なーに、大将首を上げればチャラですわい」

竹中
「ふん、大将なんぞただの一人の軍人に過ぎん。

 見ろ、この破壊された戦車軍を。

 間違いなく第一功だ」

斎藤
「分かってますよ」

 斎藤は悔しそうに鼻を鳴らし火龍を見た。

 火龍が合流した翌日に箱根軍は東名ポリス前に布陣する。

 高速道路の上には砲台が並び、地上にはトーチカや土嚢がいくつも組まれていた。

斎藤
「壮大な眺めじゃないか、箱根が始まって以来の一番の戦いになりそうだ」

竹中
「楽観的にも程があるぞ、下を攻めねば上が落とせず、下を攻めれば上から撃たれる。

 簡単にはいかんよ、圧倒的にこちらが不利だ。

 戦車が進めるスペースには兵がいない、恐らく地雷が埋まっているだろうな」

斎藤
「竹中大将の戦車が駄目でも鷹揚があるでしょーが」

竹中
「如何に巨体でも、敵の砲撃を一斉に食らったら判らんぞ」

斎藤
「火龍もあるでしょーが」

竹中
「お前は本当に上官向きだな」

斎藤
「何をゆーとるんですか、今回一歩兵で先陣をきりますよ」

竹中
「罪悪感がないのかと聞いているんだ、まったく。

 火龍が散々戦って来た名残をその目でも見ただろうが。

 少しは楽をさせてやろうと思わんのか」

斎藤
「鉄の箱に入ってるんだし、大丈夫ですよ」

竹中
「棺桶にならんかったらええが、仕方ない、やってもらうしかないか。

 まあ、先ずは話し合いだ」

 しかし、竹中の送った使者は数時間経っても帰っては来なかった。

 斎藤は痺れを切らし竹中に開戦を促し、竹中は意を決して火龍に乗り込み拡声器のマイクを持った。

竹中
「私は人類再編統括本部長の竹中大将である。

 今回の作戦の総指令を勤めさせてもらう。

 敵はこちらの和平の要求に唾を吐いた。

 平和的解決は困難となった今、暴力によって東名を攻略する事になった。

 私が乗っているこの火龍は数々の苦難を乗り越え諸君をここまで導いてきた。

 今回の作戦でも敵を必ずや撃ち抜くだろう!

 さらに我々は移動要塞鷹揚を手に入れた。

 そして歴戦の勇である朱達磨を率い斎藤大佐が自ら最前線の指揮をとる。

 こちらの兵数は列強なる千人!

 我らに恐れ高所に逃げ込んだ臆病者どもはおよそ三千。

 話にならんが東名の盗賊どもに付き合ってやろうではないか!

 発電所を奪った報いを、和平を蹴った事を悔やみながら死ね!

 箱根軍全勇士に告ぐ!

 東名本陣を
   
 圧倒し!
    
 蹂躙し!
     
 制圧せよ!全軍前進!」

 箱根の軍が雄叫びを上げゆっくりと進み始めた。

竹中
「何度もすまんが地上砲台を減らしてくれ、鉄道は通っているようだし」

立花
「お任せ下さい、その後はどうします?」

竹中
「伏兵がいたら不味い、地上で待機しておいてくれ、このトランシーバーを渡しておく」

立花
「はっ」

竹中
「心配せんでもお前達が第一の手柄とするさ、だから死ぬなよ、墓に勝利の美酒を振り撒くのだけは勿体なくてできんからな。

 それにお前が死んだら黒田から何をされるか分からんからな」

立花
「… ?竹中大将も御武運を」

竹中
「黒田はわしに死んで欲しいんだろうがな、そうはさせんさ」
 
 火龍に旗が翻り、汽笛が鳴らされた。
 
 汽笛に呼応するように全軍が声を上げ、鷹揚も進み始めた。
 
 長く続いた箱根と東名の決戦が暑く照された日差しの中で今正に始まろうとしていた。 
 
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