咆哮するは鋼鉄の火龍
 火龍は朝に箱根を出発し、変電所を抜け古戦場で一旦停止し、本多の部下の墓に花と線香を供え東名に向け走った。

 東名にいた竹中は箱根戻り、斎藤が東名の責任者として守備にあたっていた。

 かつての道路にわざわざ街を築く理由が斎藤を喜ばせていた。

 大規模な戦闘の後、死体の匂いにつられ多くのゴブリンが郡をなしやってきたのだ。

 住民を上層階に避難させ斎藤は来る日も来る日も戦闘を繰り返していた。

 本来作戦を考案するのが苦手な斎藤ではあったが、知能の低いゴブリンに対して数では劣っていたものの、まともな武器を持たない敵に連勝し、有頂天になっていた。

立花
「お疲れ様です、斎藤大佐」

斎藤
「おお小僧!

 話は聞いとるぞ、ここから先に進むんだろう?」
 
 地上で戦い続けてた斎藤と朱達磨は返り血でさらに赤く見えた。

立花
「ええ、本多の仲間を探し共同戦線を敷こうと思います」

斎藤
「結構、結構、早くこいつらの本拠地を攻めてみたいもんだ。

 もうここで殺し過ぎて東京にはおらんかも知れんがな、うははは」

 そういう斎藤の示す方向にはゴブリンの死体の山が出来ていた。

立花
「凄い数ですね、燃やさないんですか?」

斎藤
「ああしといた方が寄って来るんでな、狩りに事欠かんは、ここわ。
 
 当分わしはここを動かんぞ、気に入ってるんでな」

立花
「では我々は先に進みます、援軍が必要な時は連絡させてもらいますね」

斎藤
「待て、島津と前の奴等十人を連れていけ、それと北に妙な連中がいるから気を付けろ」

立花
「ありがとうございます、しかし…妙な連中ですか?」

斎藤
「まあ、かなり北だからここは安心だと思うが、偵察の報告によればそれなりの数で東名の敗残兵でも無く、しかもかなり装備がいいそうだ」

立花
「穏やかじゃないですね」

斎藤
「捕らえた東名の副官が言うにはどうも護国軍の生き残りかもしれんとか言っとたぞ」

立花
「生き延びていたんですかね」

斎藤
「まあ詳しくはわからんがな、あと、これらを持っていけ」
 
 斎藤が部下に箱を開けさせると中からはナイフや刀等の武器が転がった。

斎藤
「ゴブリンは動きが早いからな、下手な鉄砲使いじゃ弾が勿体ない、わしのお気に入りはこれだ。

 スカッとするぞ」

 斎藤は自慢げに鉄製のこん棒を担いで見せた。

立花
「何から何まですいません、榊原の親方がここで仕事しますが、宜しいですか?」

斎藤
「おお、技術屋がいなくてこまっとった所でな、助かる」

立花
「では北の動向が気になるんで直ぐに出発します、では」

斎藤
「気を付けろよ、ここは箱根の様に平和ボケした土地じゃないからな」

立花
「斎藤大佐も御武運を」

 立花一行は挨拶も早々に島津達を乗せ、かつて護国軍と戦った新設自衛軍に合流するべく東名を後にした。

 本多の推測によると東名のはるか北に堅固な要塞都市があり、恐らくそこにならば生き残りの部隊が逃げおおせているであろうとの事だった。

 そこは平地にそびえる険しい崖から半円状をしたドーム形のバリケードが張られた要塞が作られ、逃場こそないが様々な施設が入り多くの人間が生活するのに不自由がないそうだ。

 攻めるには難しく多くの敗残兵が最終決戦の場に選ぶのも当然であろうと本多は言った。

本多
「しかし私が壊滅の報を受けた時は皆ちりじりに逃げたそうで」

立花
「まあ行ってみるしかないか」

本多
「ゴブリンもですが厄介ですよ護国軍は」

片倉
「あんたが逃げ出す位だからな」

本多
「家族の避難の為に当時援助を求めた東名にいたのもあるし、連絡をくれた兵が部隊は、ほぼ全滅だと言ったから仕方なかったんだ」

佐竹
「行く意味あるんですかね?

 もう全滅してるんじゃないか?」

本多
「いや、少なくとも私の上官は必ず…」

佐竹
「すまない、信じよう生きている事を」

通信(ノッポ)
「こちら警戒車、遠方に大軍です!」

立花
「本多、前方で確認してくれ、念の為に機関全速力」

 本多は急ぎ警戒車へと移り、乗組員は全員戦闘体制に入った。

通信(本多)
「間違いない、護国軍です。

 交戦準備を、話し合いが通じる相手じゃない」

立花
「外交部が初っぱなから交戦とはな」

通信(本多)
「敵は迎撃体制を敷いてます、決断を!」

立花
「全砲門戦闘用意、敵の一団を突破する。

 久しぶりの戦闘だ、抜かるなよ!」

 護国軍の砲撃に火龍が久しぶりの咆哮を上げぶつかっていった。
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