咆哮するは鋼鉄の火龍
 立花の指示で各員が忙しく働き回っていた。

 火龍の四方に斥候が配置され、辺りを警戒し、宇佐美の指示で先頭車両とレール搭載車両の修復活動が行われている。

 主砲車両の一層では先ほど捕らわれた男、本多が監視付きで治療を受けていた。

立花
「どうですか?ドクター」

ドクター
「肩はハメたし、脇腹に刺さってた副砲の弾丸片は摘出して縫合も完了した。

 背中の火傷には皮膚組織の再築活性を促す薬も使ったが、いかんせん熱が高くてな、それに内臓も少しではあるが傷ついておったから感染症を引き起こす可能性もある。

 おまけに全身打撲やね」

立花
「逆にそれだけですんだのが凄いですね」

ドクター
「ああ、あの速度で電車から飛び降りてどこも骨折しとらんし。

 ほれ、こいつを運ぶ時異様に重いってみんな言っておったろ?

 密度が違うな、骨も筋肉も」

立花
「旧正規軍には戦闘への最適化の為、人体改造手術を受けた部隊があるって話なんですよね」

ドクター
「話じゃなくって事実やね。

 お前さんは知らんだろーが、一度シェルターの最深部に医療研究の為に行ったことがある。

 あそこの医療機器見たら納得いくて、今回そこから少し物質を貰ろうてきた貴重品もあるけどこいつに使ったぞ?

 わしは職業軍人じゃなく、民間出身の只の医者だし、無理やり呼ばれただけやしね」

立花
「彼は貴重な情報源ですから、出来る限りの手当てをお願いします」

ドクター
「言われんでもやっとるわ」

立花
「すいません。じゃあ目を覚ましたら連絡を」

 立花は頑固なドクターが嫌いでは無かった。

 むしろ裏表が無く、好感を持てた。

 立花は外に降りて空気を吸い込み、被害状況と次の発電所への事を既に考えていた。

 先に外に出て野営の準備を行っていた佐竹が立花を見つけると急ぎ近づいて来た。

佐竹
「どうです奴は?」

立花
「当分は目を覚まさないでしょーね」

佐竹
「でしょうね。北からの襲撃の可能性はありますかね?」

立花
「まず一つ目に我々が参戦した一回目の防衛戦で敵の侵攻に必要な兵器に大打撃を与えた事。

 二つ目にそれ以降こちらからは軍を送っていたが、向こうからは来ない事。

 三つ目に我々が参加していない奪還戦で、ある程度の打撃は与えてくれているだろうとの黒田さんの見解。

 以上より、東名は恐らく侵攻する余力は無く、防衛中心の作戦方針である確率が高いはず、僕が心配なのは前より後ろの残党なんですよ」

佐竹
「あれだけ派手にやったのにですか?」

立花
「今回殆どノンストップでここまで来ましたし、彼らは箱根北部全域で活動していたから迎撃に間に合わなかった奴等もいるんじゃないかなーっと」

佐竹
「そりゃ怖い、あのアジト跡を見たら怒るでしょうね。
 
 それにいくら平地で火力はこちらが上でも夜襲されたら不味いですね」

立花
「一応対人地雷を設置してくれますか?

 回収する為に地図に記録もお願いします」

 その時,敵の乗り捨てたエアロバイクに股がった男が走って来た。

 そのずっと後ろを必死で走っているもう一人の男も見える。

 主砲長の十河兵長とその部下の赤松上等兵である。

 二人は共に赤色に染めたモヒカンをしており、チキンヘッズと呼ばれていた。

 命令違反に軍事規律違反、民事訴訟などで結構大きな戦功が相殺される程の悪名高い問題児である。

 少し前までは軍房に入れられていた程であった。

 今回主砲の出番が無く文句を言っていたので、佐竹が壊されるという進言をなだめ、立花がエアロバイクの回収に向かわせていたのだ。

十河
「只今戻りました。

 次いでに死にかけのバイク乗りも連れて来ましたよ」

立花
「佐竹!直ぐにドクターの所へ」

 佐竹は軽々と負傷した男を抱えあげ走って行った。

十河
「これ死んでる方が持っていたんですけど貰っていいすよね?」

 十河はブーツから大きなナイフを引き抜いて見せた。

立花
「ああいいだろう、良くやってくれたな情報が増えそうだ。

 ところで赤松は?」

 十河は嬉しそうにナイフを見つめながら、振り返らずに片手で後ろを指差した。

 遠くで男が走っている。

十河
「ご褒美次いでに、お願いがあるんですが?」

立花
「エアロバイクはダメだぞ」

十河
「いや違げーんす、出来れば主砲に装飾したくって、モチベーションが変わってくるんすよ。

 出発前に勝手にやろうとして榊原のオヤッさんに怒鳴られちまって」

立花
「ははは、箱根の暴れん坊でも怖いもんがあるんだな!

 敵の標的にされる過度な装飾はやめてくれよ?」

十河
「ひょー流石は大将!分かってますね!」

 後ろから赤松が息を切らしてたどり着き十河の後ろに立った。

赤松
「はーはーっ敵が来るかも知れない平地をっ、一人で取り残されて走ってくるなんてっ。

 はーはー、なんてスリルだ!

 俺生きてるって感じ」

十河
「いつ捕虜が起きて襲われるかもわからい状況でエアロバイクで走るってのも悪くなかったぜ」

赤松
「それもいいすね」

立花
「盛り上がっているとこ悪いが、警戒車両から宇佐美を呼んで来てくれ」

十河
「了解っす。来い赤松」
 
 二人が去っていくのと同時に佐竹が戻って来た。

立花
「意外と素直ですね、あの二人、報告書と違って」


佐竹
「出来立てホヤホヤの自分の列車を自分で吹き飛ばしたぞ!

 うっひょーうちらの大将イケイケだな!
 
 イケイケっす!っとか言ってましたよ?

 真似されたらヤバいですよ」

立花
「やっぱ不味かったかな?

 幹部のお目付け役になんて報告されるか…あと親方が」

佐竹
「いや、あれは人の動きじゃなかったですし、確実に仕留めるには仕方無かったと思いますよ。

 あいつで間違いないでしょ?

 ブラックリストに載ってる墓標の盗賊団のレッドキャップって、それならお手柄ですよ!」

立花
「そうじゃなきゃ被害に釣り合わないですね」

佐竹
「あんなの何人もいたら割りに合わないなー」

 二人は主砲車両で眠る本多を振り返って思った。


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