狡猾な王子様
「英二って、ああ見えてすごく寂しがり屋なのよ」


言葉を紡ぐ声はピアノの音色のように綺麗で、自信に満ちた笑みはキラキラと輝く宝石のように美しい。


「だから、すぐに人が恋しくなるみたいでいつも私を呼ぶの」


そんな佐武さんに嫌悪感を抱いてしまう私は、とてつもなく嫌な女なのだろうか。


例えそうだとしても、これ以上愛想笑いを浮かべることはできそうにない。


そんな風に思った直後、佐武さんが呆れたようなため息をフッと漏らした。


「私だって仕事があるし、そんなに暇なわけじゃないのに。今日だってまた突然呼び出されちゃって……。本当、英二には困っちゃう」


だったら、来なければいいじゃない……。


喉元まで出掛かった言葉を声にしてしまったら、佐武さんはどんな表情をしたのだろう。


もちろんそんな勇気なんてない私は、そのあともなにか言いたげだった彼女に無言で頭を下げ、逃げるように木漏れ日亭の中に入ることしかできなかったのだけど──。

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