狡猾な王子様
時計を確認すると、まだランチの営業時間内でホッとした。


もし佐武さんがいたとしても、少なくともこの時間なら英二さんと彼女がふたりきりで過ごしているわけではないはずだから……。


そんなことを考えてしまう自分自身に落ち込みながらも、ちゃんと営業スマイルを繕う。


少し前までと比べて、私はきっと笑うのが上手くなっただろう。


木漏れ日亭への配達の日は朝から笑えなかった時が、どこか懐かしく思えたりする。


それが喜ばしいことではないと、ちゃんとわかっているけど……。


英二さんと今まで通りのお付き合いができるのは、お互いにとっていいはず。


今日も自分自身にそう言い聞かせながら木漏れ日亭の駐車場に車を停め、段ボールを片手に店のドアへ向かった。


あれ以来、木漏れ日亭から入る注文はトマトやきゅうりといった山野農園で作っている野菜だけで、その量は毎回一度で持てるくらいなのだ。


英二さんとふたりで駐車場と店内を往復していた頃が、なんだか懐かしい。

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