狡猾な王子様
寂しさを感じながら視線を落とした時、見慣れた物体が視界に入って来た。


ウネウネと動く茶色の生き物は、我が家の畑でもよく目にするミミズ。


農家の娘である私は、それに動じてしまうような可愛さは持ち合わせていないけど……。


恐らくドアの向こうにいるオシャレな女性たちは、恐がってしまうか嫌がるに違いない。


ましてや、ドアのすぐ前にいるのだから、踏まれてしまうかもしれない。


農業に携わっている以上は放っておけなくて、段ボールを隅に置いてミミズをそっと手に乗せた。


目の前のドアが開いたのは、その直後だった。


「ありがとうございました」


聞き慣れない女性の声とともに、お客さんであろう女性ふたりが出て来て……。


「やだ……」


女性客のひとりが私の手を見た瞬間、露骨に顔をしかめた。


「え、なに?」


釣られるようにもうひとりの女性客が私を見て、同じような表情をする。


「嘘でしょ」


そのあとで、その女性たちはクスクスと笑い出した。

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