狡猾な王子様
白いハンカチと反する色彩を持つ真っ黒なロングヘアーは、一目見ただけでとてもツヤがあるのがわかる。


サイドでひとつに纏められているそれは、今にもサラサラと音がしそうな程だった。


なかなかハンカチを受け取らない私の手のひらに、そっとそれが乗せられる。


「あっ……!汚れちゃいます!」


慌てて返そうとすると、女性はフワリと微笑んだ。


「大丈夫です。だから、もしよかったら使ってください」


あまりにも優しい笑顔を見せられて、さすがに断るのも気が引けて……。


「……すみません。ありがとうございます」


再びハンカチを受け取り、遠慮がちに手のひらを拭いた。


白い生地にあしらわれた淡いピンクの薔薇の刺繍が、泥に染まっていくのは申し訳なかったけど……。


女性はそれを気にも留めずに、ニコニコと笑っていた。


そして、彼女は「洗って返します」と言った私に笑顔で首を横に振ると、嫌な顔ひとつせずに黒いソムリエエプロンのポケットにハンカチをしまった。

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