狡猾な王子様
「瑠花さん、って……」


「え？」


名前を呼ばれた瑠花さんは、私を見てキョトンとしたあとで小首を傾げながら破顔した。


「あ、えっと……木漏れ日亭の新しいスタッフさんですか？」


「あぁ、違うんだ」


詮索することに躊躇しながらも当たり障りのない言葉を探して投げ掛けると、瑠花さんよりも先に英二さんが苦笑しながら答えた。


「彼女は俺の友達の奥さんで、今日はそいつに用事を頼まれて来てくれたんだよ。ただ、来てくれた時がちょうど混んでる時間帯でてんてこ舞いだったから、見兼ねて手伝ってくれたんだ」


ニコニコと笑っていた彼女が、私に頭をペコリと下げた。


「申し遅れました。貴島(きじま)瑠花です」


フワリと微笑んで名乗ってくれた瑠花さんは、程なくしてなぜか恥ずかしげに頬を赤らめた。


少女のような可愛らしさになんだかキュンとしながらも、その表情の理由がわからなくて不思議に思っていると、私たちのことを見ていた英二さんがクスリと笑った。

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