狡猾な王子様

*****


「なんだ、ふう。やけにご機嫌だな」


夕食後、ひとりで縁側にいた私に、缶ビールを片手にやって来た秋ちゃんが怪訝な表情を向けて来た。


空はどんよりとしていて、庭には小雨が降り注いでいる。


「鼻歌なんか歌って、そんなに嬉しいことでもあったのか?」


そんな状況の中、私がニコニコしているのが不思議なのだろう。


「うん。今日ね、すっごく素敵な人に出会ったの」


お風呂上がりの秋ちゃんは、バスタオルで髪を拭きながらビールをあおったあとで欠伸をひとつした。


「男か?お前の男を見る目は節穴だから、まったくアテにならねぇな」


「違うよ、女の人!って、その言い方は酷いよ!」


「あ〜、はいはい。すみませんね」


秋ちゃんがちっとも反省していないことは丸わかりだったけど、今は不快な気持ちになることはない。


瑠花さんのような女性と出会えたことが嬉しくて、むしろあんな風にけなされたって笑顔が溢れて来るくらいだった。

< 119 / 419 >

この作品をシェア

pagetop