狡猾な王子様
*****
「なんだ、ふう。やけにご機嫌だな」
夕食後、ひとりで縁側にいた私に、缶ビールを片手にやって来た秋ちゃんが怪訝な表情を向けて来た。
空はどんよりとしていて、庭には小雨が降り注いでいる。
「鼻歌なんか歌って、そんなに嬉しいことでもあったのか?」
そんな状況の中、私がニコニコしているのが不思議なのだろう。
「うん。今日ね、すっごく素敵な人に出会ったの」
お風呂上がりの秋ちゃんは、バスタオルで髪を拭きながらビールをあおったあとで欠伸をひとつした。
「男か?お前の男を見る目は節穴だから、まったくアテにならねぇな」
「違うよ、女の人!って、その言い方は酷いよ!」
「あ〜、はいはい。すみませんね」
秋ちゃんがちっとも反省していないことは丸わかりだったけど、今は不快な気持ちになることはない。
瑠花さんのような女性と出会えたことが嬉しくて、むしろあんな風にけなされたって笑顔が溢れて来るくらいだった。