狡猾な王子様
「あ、本当だ。酸味と甘みが絶妙だね」


ひと口食べた直後に目を小さく見開いた英二さんが、食い入るようにまじまじとトマトを見つめた。


「これだと下手に調味料に頼るより、できるだけ素材のまま出した方がよさそうだね。でも、サラダだとありきたりだし……。冬実ちゃんは、どんなメニューにするのがいいと思う?」


話しながら唇の端に付いたトマトの汁を指先で拭い、覗かせた赤い舌でそれをペロリと舐める。


「……冬実ちゃん?」


まるで流れるようなその動作に見入っていた私は、英二さんが不思議そうに瞬きをしながら首を傾げるまで呼吸をすることすら忘れていた。


「……あ、はい」


「冬実ちゃん、聞いてなかったよね?」


「いえ、あの……」


少しだけ困ったように、それでいて楽しげにクスクスと笑う英二さんは、きっと私が彼に見入っていたことをわかっているのだろう。


なんとなくだけど、自分に向けられた楽しげな表情を見てそんな風に思った。


だけど……。

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