狡猾な王子様
「ふうちゃん、ちょっと痩せたんじゃない?」


いつものように朝食の支度をしていると、不意に弥生ちゃんがそんなことを口にした。


生まれてこの方、『痩せた』なんて言葉を掛けて貰ったことはない。


「……そう見える?」


だから、そんな私へ向けられた疑問だというのが信じられなくて、弥生ちゃんをまじまじと見てしまった。


「うん。頬とか顎の辺りが、すっきりして来たと思うよ」


ニコニコと笑う彼女に、パァッと笑顔が浮かぶ。


「実はね、ウォーキング始めてから5キロ痩せたの!」


「やっぱり!昨日、千佳子さんとも話してたんだけど、顔が小さくなったよ」


「本当!?」


「うん。夏も『ふう、痩せたよね』って言ってたし」


弥生ちゃんから次々と紡がれるのは、あたしを喜ばせることばかり。


決してスリムになれたわけではないけど、私にとっては5キロの減量ができたのは大きな進歩。


だから、その変化に気付いて貰えたことが本当に嬉しかった。

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