狡猾な王子様
結局、英二さんに押し切られてしまう形で茶葉を受け取ることになり、躊躇いを残したままお礼を告げた。


「気をつけてね」


いつものように店先まで見送りに来てくれた彼は、もういつも通りの態度だったけど……。


「はい」


その笑顔がレプリカのように見えて、私はちっとも上手く笑うことができなかった。


ルームミラーに映る英二さんと木漏れ日亭が、少しずつ小さくなっていく。


その中にいる彼が儚げに見えたのは、あんな話を聞いたせいなのだろうか。


それだけではないような気がしたけど、店内に入った直後に感じたあの不安なざわめきを忘れたくて、必死に運転に集中しようとした。


だけど、助手席では紙袋の中の茶葉の缶が何度も小さく音を立てて、私の意識を悪戯に乱す。


つい険しい顔をしてしまう反面、後ろ髪を引かれるような気がして……。


家が近付くに連れて靄(もや)に包まれていった心が、まるで鉛を埋め込まれたみたいにどんよりとした重苦しさを感じていた──。

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