狡猾な王子様
十二月を迎えたばかりの季節は、空気も風もとても冷たい。


縁側に座っていると引き戸を閉めていても体が冷え、ガラス越しに庭をぼんやりと見つめながら首を竦めた。


「ふう、そんな格好じゃ風邪引くわよ」


「……ありがとう」


赤地に小さなドット柄の半纏を肩に掛けてくれたお母さんに微笑み、再びひとりになった縁側で腕を通しながら視線を落とす。


英二さんがくれた紅茶の缶には、まだ茶葉が半分以上も残っていた。


そのことに申し訳なさを抱きつつも、紅茶を淹れたマグカップから漂う香りに誘われるように口を付ける。


ただ、昼間のことを考えると美味しいはずの紅茶を素直に堪能できなくて、何度目かわからない小さなため息が零れた。


時刻は、二十時半を過ぎたばかり。


英二さんはまだ、ディナーを食べに来たお客さんをもてなしているのだろうか。


帰宅してからもずっと彼のことが頭から離れなくて、心は安寧を忘れてしまったようにざわめいたままだった。

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