狡猾な王子様
「おい、ふう。今日は行かねぇのか?」


「あ、ごめん。そろそろ行こうかな」


ウォーキングを促した秋ちゃんに笑みを返すと、なぜか眉を小さく寄せられてしまった。


「……今度はなにがあった?」


「え?」


「お前は昔からいつも、悩み事があると無駄にヘラヘラ笑うんだよ」


「別に、ヘラヘラなんて……」


「してるんだよ、今のお前は」


ぶっきらぼうな口調にきっぱりと遮られ、秋ちゃんの真っ直ぐな視線から逃げるように俯く。


必然的に視界に入って来たのは紅茶の缶で、なんだか無性に切なくなった。


「どうせ、あのエセ臭い男のことなんだろ?」


呆れたように核心を突いて来た秋ちゃんは、いつだって鋭いから嫌になる。


誰にだって、触れられたくないことがあるものなのに……。


「先に言っておくけど、お前がバカみたいにわかりやすいだけなんだからな」


ドカッと隣に腰を下ろした秋ちゃんが、私の心情を読み取ったかのように盛大なため息をついた。

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