狡猾な王子様
『別に、誰でもいい、ってわけじゃないんだけどね』


この言葉を聞いた翌日の夜に感じた通り、やっぱりそこには深い意味があったのかもしれない。


だって……。


“誰でもいいというわけじゃない”というのは、裏を返せば“誰か特定の人がいい”ということになるんじゃないかと思うから……。


その一方で、あの時の英二さんがいつもと同じように柔らかい表情だったこともはっきりと記憶していて、だからこそ私の勝手なこじつけだろうとも思ってしまう。


だけど……。


ひとつの可能性が脳裏を過ぎった今、あの時の英二さんは本当に笑っていたのかがわからなくなってしまった。


『でも、誰かじゃないとダメ、ってこともないんだ』


この悲しい言葉だって、本当は誰かを想っているからこそ出たものだったのかもしれない。


そして、英二さんの言葉が“誰”を指していたのか。


迷うことなく辿り着いたのは、今日の昼間に初めて会った清楚な雰囲気の女性のことだった。

< 178 / 419 >

この作品をシェア

pagetop