狡猾な王子様
そんなことを考えているうちに佐武さんが部屋から出て行き、程なくして私を見つめた英二さんが苦笑を零した。


「冬実ちゃんには、変なところばかり見られているね」


横に振ろうとした首は否定を見せられず、逃げるように足元に視線が落ちる。


「あ……」


そこでようやく持って来たタッパーが床にあることに気付いて、いつ落としてしまったのかもわからないそれを拾おうと手を伸ばしたけど……。


「……もしかして、これを差し入れしてくれるつもりだった?」


先に英二さんの手がタッパーを掴み、つい視線がその行方を追ってしまった。


直後に彼と目が合ったことに戸惑い、慌てて視線を逸らす。


「すみません……」


そんな私の口から出たのは小さな謝罪の言葉だけで、きっと英二さんをますます困惑させてしまっただろう。


「ひ、昼間……」


「え?」


さすがに理由を誤魔化す自信がなくて仕方なく重い口を開けば、英二さんの怪訝そうな声が静かな部屋に響いた。

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