狡猾な王子様
「でも、俺の為に持って来てくれたんだよね?それに、これ手作りでしょ?」


瞳をフワリと緩めた英二さんが、私の返事を待たずに蓋を開けた。


「美味しそうだね、トマトゼリーかな?」


「あ、はい」


幸いにも器は割れていないけど、タッパーの中では器からゼリーが零れていて、お粗末な見た目になってしまっている。


「店の方に行かない?ここ、食器とか置いてなくてさ」


それなのに、英二さんはそんなことは気にも留めないと言わんばかりにニッコリと笑い、ドアを開けて店の方へと促した。


そんな笑顔を向けられてしまったら、『返してください』なんて言えるわけがない。


英二さんと一緒に部屋を出た私は、彼に言われるがままカウンターの椅子に座った。


「はい、どうぞ」


「ありがとうございます」


「じゃあ、俺はこっちをいただきます」


紅茶を淹れてくれた英二さんにぎこちない笑みを向けてティーカップを持つと、彼はスプーンでトマトゼリーを掬って口に運んだ。

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